
3Dプリント型枠で、建築の“つくる”をつくる
最終更新日:2026/07/02

株式会社建築技術
KENGI編集部
建設業界では、職人の高齢化や若手不足といった課題が指摘されて久しくなっています。
こうした状況の中で、施工のあり方そのものを見直す動きも徐々に広がりつつあります。
その中で、建築の作り方そのものを変えるというアプローチで挑戦しているのが、株式会社DigitalArchi(デジタルアーキ)です。
同社は、廃プラスチックを活用した3Dプリンターによる「型枠製造」という独自の技術で、建設プロセスの変革を目指しています。
本記事では、同社代表の松岡氏へのインタビューをもとに、その取り組みと背景にある思想をひも解いていきます。
建築とデジタル、その交差点から生まれたスタートアップ
―まずは会社について教えてください。
松岡:
DigitalArchiという会社で、設立から3年、現在4期目に入ったところです。
事業としては、コンクリート型枠などの建材を製造・販売するメーカーです。その中でも特徴的なのが、廃プラスチックを材料として3Dプリンタで製造している点になります。


―型枠メーカーと聞くと従来の建材企業の印象ですが、かなり新しいアプローチですね。
松岡:
そうですね。自分のバックグラウンドも影響しています。
もともとは竹中工務店の技術研究所で約20年ほど研究職として働いていて、建設会社のなかでコンピューターサイエンスを用いた研究を幅広くしてきました。
―研究業務のなかでは、どのような分野を扱われていたのでしょうか?
松岡:
はい。IoT(ユビキタスコンピューティング)の分野から始まり、AR・VRなどのビジュアライゼーション、AI、さらには3Dプリンティングまで。
建築に適用できる技術はかなり幅広く扱ってきました。
―建築と情報系、両方の専門性があると伺いました。
松岡:
大学は建築学科で、大学院ではコンピューターサイエンスを専攻しました。
もともと「コンピュータを使って建築設計をする」というところにずっと興味があって。当時、その先端をいっていたのがザハやフランク・ゲイリーであり、感化されて建築学科に進学しました。
日本だと学部と修士が違う分野の人材は少ないですが、コンピューターサイエンスは独学であったことから、体系的に学ぶために大学院で専攻しました。
―それが、今の事業にも直結していますね。
松岡:
はい。また、2015年にアメリカに留学をして、ちょうどスタートアップのエコシステムが起き始めた時期で、スタートアップ界隈とのつながりを得ました。
そこで、帰国後に竹中工務店の中でスタートアップとの連携部署を立ち上げて、オープンイノベーションの担当として仕事をしてきました。
3Dプリンティングという技術を慶応大学と共同研究をしてきた経緯もあって、田中浩也慶応義塾大学教授と共同創業し現在に至ります。
なぜ「施工」に目を向けたのか
―スタートアップを立ち上げるに至った背景は何だったのでしょう。
松岡:
大きなきっかけは、施工の限界を感じたことです。
建築の長い歴史の中で、AIの活用だとか、プロダクトデザイン用のツールを用いて建築をデザインするような、いわゆるコンピュテーショナルデザインの領域などが増えてきました。
―確かに、設計の自由度は一気に広がっている印象があります。
松岡:
曲面や複雑な形状を扱うことが一般的になってきた一方で、施工の方がそれに追従できていないと感じます。
―職人の技術に依存する部分も大きいですよね。
松岡:
そうなんです。そしてその職人がいなくなっている。
実際、後で紹介するプロジェクトでも、型枠大工さんに断られた案件というものもあります。
―設計ができても、施工が成立しない。
松岡:
そのなかでも最初に着目したのがコンクリート型枠で、木や鉄でつくる型枠を3Dプリンタで自動製造するということ。
3Dプリンタを用いて設計者の考える新しいデザインの可能性を実現するところに、あらゆる技術を適用していきたいと考えるとともに、社会課題である建設現場の人手不足問題の解消に寄与したいと考えています。
なぜ「型枠」なのか
松岡:
3Dプリンタは何でも作れる技術なんですが、事業として成立させるには、技術的に可能で、コストも合って、現場で実際に使われるという、そのバランスが取れる領域を見つける必要があります。
いろいろ検討した中で、その“スイートスポット”にあったのが型枠だった、というのが大きな判断です。
―建築での3Dプリントというと、モルタルを直接出力するものもありますよね。
松岡:
多いですね。ただ、我々は選びませんでした。
代わりに選んだのが、プラスチックによる型枠の3Dプリントです。


―そこにはどんな判断があったんですか。
松岡:
モルタル3Dプリントは現場施工型で、施工が早いというメリットがありますが、実際には「温度管理が難しい」「ノズルやポンプ内で固まるリスクがある」「洗浄作業が頻繁に発生する」「結果的に人手がかかる」といった課題があります。
―人手不足問題の解消には合わなさそうですね。
松岡:
そうなんです。 一方で3Dプリントは、「工場で安定的に動作する」「プリント物が軽量で運搬が楽」「材料費も比較的安い」というメリットがあります。
―工場生産と現場施工を分離しているんですね。
松岡:
はい。基本は工場でプリントして現場に搬入します。
プリンターを積載しているトレーラーハウスも用意していますが、現実的には工場生産の方が合理的です。
施工事例:450パーツの曲面バルコニー
―具体的な施工事例について教えてください。
松岡:
川崎で進めているプロジェクトで、曲面のバルコニー形状を3Dプリント型枠で実現しています。
実際に型枠大工の職人からは「できない」と言われていた案件でした。
そこで我々に相談が来て、「3Dプリントならできる」ということでスタートしました。


―規模はどのくらいですか。
松岡:
型枠パーツは約450個です。
それぞれ微妙に形状が異なるので、基本的にはすべて個別設計です。
―現場ではどんな進め方になるんですか。
松岡:
一度並べてみて、現場で精度を確認して、必要があれば再製造する。
「ここちょっと長いから作り直してほしい」とか、そういうやり取りが普通に発生します。
現場合わせ対応もあるので、完全な一発施工ではないんです。
―デジタルでも現場合わせは必要なんですね。
松岡:
そうですね。現場は必ずしもデータ通りではないので、実際に組んでみると「ちょっと合わない」ということが起きる。
―プロジェクトの始まったばかりは苦労も多かったのでしょうか。
松岡:
はい。最初の100パーツはやり直しが多くて大変でした。
ただ、200パーツを超えてくると一気に手戻りが減って、スムーズに進みました。
このプロジェクトは、製造・検品・施工のすべてのプロセスを学ぶという意味で、とても重要な経験になっています。
―現場の職人さんの反応はいかがでしたか。
松岡:
現場では「3D屋さん」と呼ばれていました。
職人の方も初めて触る材料ですし、心配もありましたが、実際に使ってみると、職人さんは本当にプロなので、その場で対応できることはどんどん解決していく。むしろ我々が助けられる場面が多かったです。

素材と循環
―材料はすべて廃棄プラスチックとのことですが。
松岡:
はい。プラスチックの材料についても、廃棄プラスチックいわゆるリサイクルプラスチックを100%使用しています。
例えば、化粧品のボトルなどを原料にしています。資源循環の取り組みとしても重要なポイントです。
―施工後に廃材で出たプラスチックを活用できるのでしょうか。
松岡:
理想としては回収・再利用ですが、現場運用の難しさもあります。
川崎で実施したプロジェクトでは、工場で出た廃材はリサイクルして活用していましたが、残念ながら完全な循環は実現できませんでした。
今後はレンタルモデルなど回収性を高める方法も検討しています。
「型枠2.0」という発想
―今後の技術開発について教えてください。
松岡:
「型枠2.0」という新プロダクトの研究開発をしています。
従来は型枠を取り外しますが、これを取り外さず建物の一部として残す。
さらに、断熱性能を持たせたり、排水・配管の空間も一緒にプリントして多機能モジュールを構築できるような技術を開発しています。
―工法そのものを変える試みですね。
松岡:
そうです。人手をかけずに短工期化した工法を開発という、型枠の概念とはまた違う建築の建て方を考えています。
現在は研究開発段階ですが、静岡に実証棟を計画していて、10㎡程度の小屋で検証を進めています。

なぜ施工は変わらざるを得ないのか
―10年前に人手不足の深刻さを海外留学の際に目にされたとのことですが。
松岡:
日本も問題ですが、アメリカはもっと極端でした。当時、大工の人工が1日15万円でも足りない。
―それだけ高くても人がいないんですね。
松岡:
そうなると何が起きるかというと、 設計が変わるんです。
施工が簡単な構造が選択される。海外では、フラットスラブが主流になるなど、すでに起きています。
―施工が建築を規定する時代。
松岡:
日本も確実にそうなります。その中で、どうやって品質とデザインを維持するか。
それがこの技術の役割だと思っています。
目指す未来:建築の「つくる」をつくる
―最後に、これからの展望を教えてください。
松岡:
DigitalArchiのミッションは「建築の“つくる”をつくる」です。
建物の作り方を一から考え直し、それを実践していくことを考えています。
―作り方から考え直す。
松岡:
そうです。
海外だと似たような会社があって、3Dプリンタで新しい建築表現が広まりつつありますが、日本ではあまり見たことがない。
職人が手作りしてきたものが、人手不足で難しくなった時に、それを代替する手段を作っていくという、産業を下支えする技術になりたいと考えています。同時に、内装部材とかデザイナー思考のところもちょっとやれるようになりたいなと思っているところですね。
―松岡代表、ありがとうございました!


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