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構造を空間に現し刺激的な働く場を創出 -タマディック豊田オフィスMobius Park-
最終更新日:2026/10/28
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株式会社坂茂建築設計
坂 茂
坂 茂氏プロフィール 1957 年東京都生まれ。1978 ~80年南カリフォルニア建築大学(SCI-Arc)。84年クーパー・ユニオン建築学部(NY)卒業。1982~83年磯崎新アトリエ。1985年坂茂建築設計設立。1995~99年国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)コンサルタント。1995年NPO法人ボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク(VAN)設立。2001~08年、15~23年慶應義塾大学環境情報学部教授。現在、芝浦工業大学特別招聘教授。2014年プリツカー建築賞受賞。2025年、日本芸術院会員、文化功労者に選出。2026年AIAアメリカ建築家協会ゴールドメダル受賞。
愛知県豊田市に誕生した「タマディック豊田オフィス Mobius Park」。建築家・坂 茂氏が設計を手がけた本施設は、オフィス棟「M1-House」、ラボ棟「M2-Lab」、Wellness-Wing(福利厚生機能)の3棟で構成されています。それぞれの用途に応じた独自の構造・構法を採用するとともに、3棟で中庭を囲むように配置し、大屋根で緩やかにつなぐことで、自然を身近に感じながら働くことのできる空間を生み出しています。
2026年6月2日に開催された開所式では、設計を手がけた坂氏、ランドスケープを担当した西畠清順氏、タマディックの森實敏彦社長によるトークセッションが行われました。プロジェクトに至る経緯や、新たな構造・構法への挑戦、建築とランドスケープの関係などについて、それぞれの立場から語られました。


開所式での様子 左からプラントハンターの西畠清順氏、タマディック 代表取締役社長の森實敏彦氏、建築家の坂 茂氏、豊田市長の太田稔彦氏
2021年竣工のタマディック名古屋ビルに続く今回のプロジェクトでは、木材を無駄なく使うという考え方や、日本の法規制を踏まえた新たな木の使い方、独自の構造・構法に関する発想が、どのように建築として具体化されたのでしょうか。構造設計者との協働や技術的な検証を重ねた設計プロセスをはじめ、建築とランドスケープの関係、これからのオフィス建築のあり方について、坂氏にお話を伺いました。
エンジニアに刺激を――建築に込めた技術への挑戦
――まず、タマディックとのこれまでの取り組みについて伺います。坂さんは2021年に竣工したタマディック名古屋ビルの設計も手がけられていますが、今回のMobius Parkでは、どのような新しい試みを取り入れられたのでしょうか。
坂 茂氏(以下:坂):タマディック名古屋ビルでは、「燃え代設計」の純粋な耐火木造建築が認められていない日本だからこその木質系構造として、コンクリートとCLT(直交集成板)を組み合わせたハイブリッド構造を実現しました。
今回は用途の異なる3棟それぞれに適した構造形式を考えました。特にオフィス棟の床では、厚さ2.3mmの既製のスチール折板を、上下それぞれ厚さ12mmの構造用合板2枚で挟んだストレストスキンパネルを開発しています。
そこで働くエンジニアにとっても刺激となるように、木造・木質化に対する「技術的な挑戦」が期待されましたが、それに限らず、独自の構造・素材・工法を開発していくことは常に大切にしている姿勢です。

2021年に竣工したタマディック名古屋ビル

オフィス棟「M1-House」
――Mobius Parkはオフィス棟「M1-House」、ラボ棟「M2-Lab」、Wellness-Wing(福利厚生機能)の3棟で構成されています。この3棟の配置は、周辺環境との関係からどのように考えられたのでしょうか。
坂:敷地は周囲を工場で囲まれた地域にありながら、幸運にも東側にだけまとまった緑地が残されていました。そこで工場地帯を背に、緑地に向かって中庭を囲うように3棟を配置し、それらを大きな屋根によって緩やかにつなぎました。

オフィス棟「M1-House」、ラボ棟「M2-Lab」、Wellness-Wing(福利厚生機能)の3棟で構成されているMobius Park
――用途も構造も異なる3棟を、一つの施設としてつなぐ上では、どのような工夫をされたのでしょうか。
坂:大屋根で緩やかにつなぎ、中庭を囲むように配置することでそれぞれの棟の様子を自然に感じ取ることができると考えました。「Wellness Wing」のメインホールは引き戸を開けることで、内外がつながり、中庭と一体的に利用することもできます。

ラボ棟「M2-Lab」
建築家の仮説から広がる、構造設計者との「共同開発」
――今回のプロジェクトでは、独自の構造や構法がいくつも採用されています。開所式のトークセッションでは、エンジニアとの仕事を「共同開発」と表現されていましたが、新しいアイデアを実現するために、構造設計者との協働で大切にされていることを教えてください。
坂:新しい構造や構法を実現するためには、まず建築家自身が構造に対する明確なアイデアと仮説を持つことが重要だと考えています。その上で、それを構造設計者に単に成立させてもらうのではなく、どうすれば実現できるのかを一緒に考えて進めています。
構造設計者が構造的な視点から可能性や問題点を挙げ、それを受けて建築側も考え直す。そうしたやり取りを繰り返し、必要であれば実験なども行いながら、アイデアを実現させていく共同開発です。
――そうした新しい構造や構法を具体化する過程では、原寸大のモックアップによる検証も行われています。坂さんは、設計を進める上でモックアップをどのように活用されているのでしょうか。
坂:構造実験を行う場合に限らず、プロジェクトにおいて重要となる部分については、モックアップをつくって検証することがあります。納まりや見え方を確認できるだけでなく、施工手順の検証や、クライアントとのイメージの共有にも役立つため、最終的な仕上がりを具体化していく上で有効な方法だと考えています。
――建築と外部空間の関係についても伺います。今回、ランドスケープは西畠清順氏が手がけられています。トークセッションでは、植物が今後どのように育っていくのか予測できないところが面白いとお話しされていましたが、時間とともに変化するランドスケープについて、どのような期待をお持ちですか。
坂:特徴的な植物を選ばれていて、その成長や変化も含めて、この場所の魅力になっていけばよいと思っています。
クライアントとの共感から生まれた、居心地の良いオフィス
――名古屋ビルからMobius Parkへと、タマディックとのプロジェクトでは新しい木の使い方や構造・構法を追求されてきました。今回の取り組みのなかで、今後の建築への展開や発展の可能性を感じているものはありますか。
坂:プロジェクトの用途や規模など様々な要件に応じて、構造や構法を考えているので一概には言えません。今回開発したストレストスキンパネルの床や、同心円状に切り出したリング材の木造トラスを、新たな形で発展させたり、再構築したりすることは考えられますが、まったく同じことを繰り返すことはしません。

Wellness-Wing(福利厚生機能)
――最後に、これからのオフィス建築について伺います。Mobius Parkでは、働く場所だけでなく、健康や交流、自然との関係も大切にされています。坂さんは、これからのオフィスにとって、どのような空間や環境をつくることが重要だとお考えでしょうか。
坂:近年設計したタマディック名古屋ビル、スイスのタメディア新本社ビル、スウォッチ・オメガはどれも木造・木質化したオフィスです。構造そのものを空間に現すことで、働く場所の雰囲気や居心地の良さにつなげています。
オフィスは一日の多くの時間を過ごす場所なので、構造や素材、外部との関係も含めて、働く人が心地よく過ごせる環境をつくることが大切だと考えています。また、タマディックは、社員のための環境づくりに加え、地域との良い関係を築いていくことも大切にしており、その姿勢に共感しています。
――ありがとうございました。
用途や敷地の条件に向き合いながら、新しい技術と空間のあり方を探るMobius Park。新たな素材や構法の開発に挑み続ける坂氏と、技術革新を追求しながら、働く人の健康や地域とのつながりを大切にするタマディック。両者の理念への共感が、今回のプロジェクトを支えています。この場所から生まれるエンジニアたちの交流や新たな挑戦が、次のものづくりへとつながることが期待されます。




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