
建築家の構想をかたちにする現場力
最終更新日:2026/10/28

株式会社建築技術
KENGI編集部
総合エンジニアリング企業・株式会社タマディックが愛知県豊田市に開設した「タマディック 豊田オフィス Mobius Park」。世界的建築家・坂 茂氏が設計を手がけた本施設は、オフィス棟(M1-House)、ラボ棟(M2-Lab)、Wellness-Wing(福利厚生機能)の3棟からなり、木造と鉄骨造のハイブリッド構造や木と鉄の合成床、張弦梁、木造リングトラスなど、それぞれに特徴的な構造が採用されています。
これらを実際の建築として成立させるため、施工の現場ではどのような検討が行われ、設計者や専門工事会社とどのように連携したのでしょうか。施工を担当した大和ハウス工業株式会社の坂口洋介氏と森北啓太氏に、施工計画やモックアップによる検証、現場での工夫について伺いました。
プロジェクト概要 | |
|---|---|
株式会社タマディック 豊田オフィス「Mobius Park」 | |
建築主 | 株式会社タマディック |
設計 | 坂茂建築設計 |
施工 | 大和ハウス工業株式会社 |
異素材を融合した新たな構造
―まず、今回の工事で特に苦労された点について教えてください。
坂口: 私がオフィス棟(M1-House)とラボ棟(M2-Lab)を担当し、北側のWellness-Wing(福利厚生機能)を森北が担当しました。
オフィス棟とラボ棟(M2-Lab)に共通していたのは、これまで経験したことのない施工が多かったことです。
例えばオフィス棟では、スラブがデッキプレートを2枚の構造用合板で挟み込む構成になっています。この構成は初めてでしたので、納まりや組立方法、施工手順などを一つずつ検討しながら進める必要がありました。
また全体的に、意匠上、納まりのクリアランスにあまり余裕がありません。そのため施工図の段階から、必要なクリアランスや幅をいかに確保するかを確認していきました。高さ関係にもシビアな部分が多く、その精度を確保することも課題でした。
.webp)
オフィス棟(M1-House)、ラボ棟(M2-Lab)、Wellness-Wing(福利厚生機能)の3棟からなる「タマディック 豊田オフィス Mobius Park」 (坂茂建築設計提供)
―合成床については、どのように施工方法を決めていったのでしょうか。
坂口: 当初は床をユニット化し、鉄骨フレームができた段階で、合板まで張った床ユニットを現場へ搬入することを想定していました。
ところが、実際の納まりを考えるとユニット化は難しいことが分かり、最終的には現場でデッキプレートを2枚の構造用合板で挟み込む方法に変更しました。
施工手順をどうするか、どこまでユニット化できるかは、図面だけでは判断できない部分があり、モックアップで確認しました。
―モックアップでは、具体的に何を確認したのでしょうか。
坂口: 柱の1スパンと天井を切り取ったようなものを原寸大で製作しました。
特に確認したのが床です。合成床は私たちにとって初めての工法でしたので、実際にどのように納まるのか、どのような手順で施工するのかを原寸大で確認しました。
また、設計者と施工者の間で「この納まりで間違いない」という認識を共有する意味でも、モックアップは重要だったと思います。
理想はユニット化でしたが、実際にモックアップをつくることで、それが難しいことが分かりました。
私たちだけでなく、坂茂建築設計にも実物を見て理解していただけたので、モックアップによる検証は有効だったと思います。
.webp)
オフィス棟(M1-House)

デッキプレートを2枚の構造用合板で挟み込んだオフィス棟(M1-House)の「木と鉄による合成スラブ床」
%20%E3%81%AE%E3%82%B3%E3%83%94%E3%83%BC.webp?w=602&h=451)
%20%E3%81%AE%E3%82%B3%E3%83%94%E3%83%BC.webp?w=602&h=451)
オフィス棟(M1-House)合成床下面の構造用合板の施工 Photo:大和ハウス工業

オフィス棟(M1-House)合成床デッキ Photo:大和ハウス工業
―ラボ棟では張弦梁が採用されています。施工上、特に留意した点があれば教えてください。
坂口:張弦梁については、地組み時のキャンバー管理に特に注意しました。設定されたキャンバー寸法を厳守するため、調整と確認を繰り返しながら施工しました。

ラボ棟(M2-Lab)

ラボ棟(M2-Lab)の張弦梁の施工 Photo:大和ハウス工業
―Wellness-Wingについてはいかがでしたか。
森北: Wellness-Wingは、すでにオフィス棟とラボ棟ができている状態で工事を進めたため、先行する2棟と高さを合わせる必要がありました。
また、特徴的なリングトラスを採用した特殊な木造建築です。私自身もリングトラスについて一から学び、納まりや施工方法を関係者と確認しながら進めました。特に難しかったのは、建て方と施工手順です。どのように組み立て、現場で一つずつ納めていくのか、工程と施工性を考えながら進める必要がありました。

Wellness-Wing(福利厚生機能)は、柱と梁を一体化したリング状の木造フレームが連続する「木造リングトラス構造」を採用 Photo:大和ハウス工業
―リングトラスは、加工や製作の面でも一般的なものとは異なったのでしょうか。
森北: このような形状のトラス自体、あまり例がないと思います。
―実際には、どのように製作し、現場で組み立てたのでしょうか。
森北: 今回はナイス株式会社さんに製作をお願いしました。この種の加工を得意とされている会社で、工場と連携しながら進めました。
部材は工場で製作し、ある程度まで組み立てた状態で現場へ搬入しました。それを現場で一つずつ所定の位置に納めて施工しています。


工場での加工の様子 Photo:大和ハウス工業

Wellness-Wing(福利厚生機能)の施工 Photo:大和ハウス工業
―Wellness-Wingでは、ポリカーボネートを用いた耐力壁も採用されています。木造フレームとの取り合いや施工精度を確保するうえで、具体的にどのような工夫が必要でしたか。
森北:ポリカーボネートを耐力壁の面材として使用するため、まず釘の種類や長さ、ピッチを仕様どおりに施工することを徹底しました。また、各取付位置に合わせて、大きさや釘穴を加工したプレカット材を使用し、施工精度を管理しました。木造躯体の建方では、工場で製作した部材を現地でフレーム状に組み上げ、それぞれを足場の間に差し込みながら施工しました。4か所を同時に所定の位置へ納める必要があるため、足元の土台の高さや位置に大きな誤差があると固定できません。そのため、土台の高さと位置は特に重点的に管理しました。
―木部との接合部や端部の納まりについて、特に工夫した点があれば教えてください。
森北:木部と鉄骨が取り合う部分では、接合部や鉄骨部材がそのまま見えてしまうと、木部の連続した意匠を損ないます。そのため、木材を鉄骨の形状に合わせて加工し、鉄骨を覆うように後から木材を取り付けることで、接合部を見せず、木材が連続して見える納まりとしました。特に、木材の加工精度や現場での取り付け手順が仕上がりに大きく影響するため、事前に納まりを確認し、鉄骨との取り合いを考慮しながら加工・施工しました。

Wellness-Wing(福利厚生機能)のポリカーボネート耐力壁 Photo:大和ハウス工業
―木や構造そのものが意匠として見える部分については、施工上どのような点に配慮しましたか。
坂口: 特にオフィス棟は木造と鉄骨造のハイブリッド構造で、木材がそのまま仕上げとして見える部分も多くあります。そのため、木材の取り扱い、特に化粧性には非常に気を使いました。
木は日に焼けると色が変わりますし、施工中に汚れが付くと落とせないこともあります。また、木目を生かした設計なので、施工によってその意匠を損なわないことも重要でした。
そこで、施工した部分をその都度設計者に見ていただき、「この仕上がりでよいか」と確認しながら進めました。
色味を含め、木そのものが仕上げとして見える建物です。施工から完成まで、変色や汚れが生じないよう、木材の取り扱いには特に配慮しました。
森北: Wellness-Wingも同様です。木材を仕上げとして見せる部分が多く、白系の仕上がりが求められていたため、施工中に傷や汚れを付けないよう管理しました。


木材の日焼けによる色の変化や、施工中の手アカ・汚れの付着を防ぐため、取り扱いには細心の注意が払われた(上:オフィス棟(M1-House)、下:Wellness-Wing(福利厚生機能))
―施工という点では、敷地の地盤条件はいかがでしたか。
坂口: ここは建築的には非常に地盤が強く、ボーリング調査の結果、杭を使わない直接基礎となっています。
この規模の建物では杭を使ったり、表層改良を行ったりする場合もありますが、今回は地盤改良を行わず、直接基礎とすることができました。
森北: 十分な支持力がある地盤だったので、その点は恵まれていたと思います。
ぶっつけ本番では絶対にうまくいかない
―合成床では、モックアップによる検証を経て施工方法そのものを変更されています。今回の工事では、施工に入る前の計画が特に重要だったのでしょうか。
坂口: 施工管理では、やはり「計画」が重要だと思います。ぶっつけ本番では絶対にうまくいきません。どうすれば施工できるのか、複数の計画を考え、それを専門工事会社と協議する。私たちだけで机上で考えても、実際の施工にはつながりません。
専門工事会社と方法を詰め、それが設計者の意図にも合っているかを確認する。さらに必要な部分はモックアップをつくって検証し、「これで大丈夫だ」と確認できてから現場へ進む。その手順を踏んできました。やはり事前の計画が一番重要だったと思います。現場自体は結構スムーズだったんですけど……いや、スムーズではないですね(笑)。実際にはかなり苦労しました。ただ、何も準備せずに始めていたら、まず終わっていなかったと思います。
―計画を具体化するうえで、設計者や専門工事会社とはどのように連携したのでしょうか。
坂口: まず設計意図を正確に理解するため、対面で話す機会を多く設けました。
坂茂建築設計と弊社だけではなく、施工図ができた段階からメーカーや専門工事会社にも参加してもらい、3者で直接協議する場を設けました。
私たちを介して情報を伝えるだけでは、100ある情報が50しか伝わらないこともありますし、時間もかかります。設計者と施工者、実際に施工する専門工事会社が直接話したほうが、設計意図も施工上の課題も共有しやすい。
そこで最初に対面でキックオフを行い、施工図の段階から関係者が直接協議できる体制をつくりました。
森北: 基本的には、専門工事会社から提出された施工図をチェックし、それをもとに協議する流れです。
坂茂建築設計も3者で直接協議することを望まれていたので、細かな部分まで確認しながら進めました。
Wellness-Wingでは、設計者にも毎週のように現地へ来ていただきました。実際の施工状況を見てもらい、設計意図どおりの建物になっているかを確認しながら施工しています。
―複数の工種が取り合う部分では、どのように調整したのでしょうか。
坂口: 一つの作業でも、複数の業者が関係する取り合いがあります。1業種だけで「これでOK」と決めてしまうと、別の部分で不具合が生じる可能性があります。
そのため、関係する業者を一度に集めて全体会議を行い、それぞれの工事を個別に考えるのではなく、施工順序を含めて全体として成立するかを確認しました。こうした会議は何度も行っています。
施工方法についても、私たちだけで決めるのではなく、実際に施工する専門工事会社の知恵を借りました。施工しやすい仮設計画なども提案してもらい、それを計画に反映しています。
うまくいったこともあれば、うまくいかなかったこともありましたが、その経験も今後の現場に生かせるものになったと思います。
―施工者側から設計者側へ提案したことはありますか。特に、完成後の維持管理についてはいかがでしょうか。
坂口: 施工者側からは、主にメンテナンスについて提案しました。
完成後はタマディック様が長く建物を運用していくことになります。そのため点検の際に、「この部分はこのようにしたほうがよいのではないか」「この材料を使ってはどうか」といった提案をしています。
実際に建物を使い続け、維持管理していくことも考えながら意見を出しました。
世界的建築家の設計をかたちに
―こうした計画と検証を重ねて完成した建物を、実際にご覧になったときはいかがでしたか。
坂口: 非常に苦労した現場だったので、完成したときは感無量でした。
まずは「何とかやりきった」という気持ちがありました。それ以上に感じたのは、関係者の皆さんへの感謝です。
協力会社や専門工事会社の皆さん、社内のメンバーにも多くのサポートをしてもらいました。達成感以上に、皆さんへの感謝の気持ちが大きかったですね。
森北: Wellness-Wingについても、本当に多くの方に助けていただきました。
―今回の現場では、施工図の段階から関係者が協議し、原寸大のモックアップで納まりや施工手順を確認し、必要に応じて施工方法そのものを変更してきました。今回得た経験のうち、次の現場にも生かしていきたいことは何でしょうか。
森北:今回の現場では、施工図の段階から関係者で協議し、必要なところはモックアップをつくって確認することの大切さを改めて感じました。図面だけでは分からないことも、実物をつくることで見えてきます。そこで課題が分かれば、実際の施工に入る前に方法を見直すこともできます。次の現場でも、関係者と早い段階から意見を出し合いながら、必要に応じて事前に検証していきたいと思います。
―一般的なオフィスとはかなり異なる建築ですが、施工者として今回の仕事を経験したことを、どのように捉えていますか。
坂口: これまで担当した中でも、特に大変な現場の一つだったと思います。その分、やりがいもありました。
世界的な建築家が設計した建物の施工に携われたことは、自分にとっても誇りですし、非常によい経験になりました。
―坂口さん、森北さん、本日はありがとうございました。
建築主であるタマディックは、「All for Well Engineer Life(すべては、良いエンジニア人生のために。)」を掲げています。
その理念を支える建築空間「Mobius Park」の実現の背景には、特徴的な設計を施工へと落とし込むための入念な計画がありました。施工図の段階から設計者や専門工事会社と知恵を出し合い、原寸大のモックアップで納まりや施工手順を確かめ、必要に応じて当初想定していた施工方法そのものを見直す。そうした検証と調整の積み重ねによって、建築家の構想が実際の建築へとつなげられていきました。


Photo:タマディック
▶関連記事「DESIGNERS#1|構造を空間に現し刺激的な働く場の創出 -タマディック豊田オフィスMobius Park-」



.png)