
建築工事における「設計段階の積算とは」~設計の各フェーズにおける積算について、発注者・設計者それぞれの視点から解説~
最終更新日:2026/10/26
.jpg)
株式会社日積サーベイ
生島 淳平
ベンチャーの広告会社にて、ビジネスマッチングプラットフォームの企画・運営に約4年従事。その後、現在の会社に転職し、子会社への出向を経て自社開発の積算システムの営業・コンサルティングを担当。BIMと積算の連携推進に取り組みながら、建築積算・コストマネジメントの実務も経験し、現在は積算システムの企画・運営を中心に活動。 異業種からのキャリアチェンジという独自の視点と、積算システムの導入支援から実務まで幅広く携わってきた経験を活かし、本連載の監修を務めます。 次回からも、弊社の実務社員(30代の中核メンバー)が自身の経験をもとに執筆し、監修者がその内容を監修する形でお届けします。教科書的な解説にとどまらず、現場で実際に感じた悩みや気づき、リアルな実務の声をお伝えできるのがこの連載の強みです。ぜひ楽しみにしていてください。

株式会社日積サーベイ
渡邊 俊太
株式会社日積サーベイにて建築積算業務に従事。公共工事の予算書作成を中心に、数量積算から内訳書作成、値入までの実務を担当し、物件の窓口対応を行うほか、幅広い部位・工種の積算を担当している。
監修者コメント
第4回では、積算業務を始めたばかりの新人がつまずきやすいポイントを、弊社社員の実務経験をもとにご紹介しました。図面の読み方や単位の扱いなど、現場で実際に感じる悩みに共感していただけた方も多かったのではないでしょうか。今回は少し視点を上げて、設計の各フェーズにおいて積算がどのような役割を果たすのかを、発注者と設計者それぞれの立場から解説します。積算は工事費を計算するだけでなく、プロジェクト全体のコストを継続的に管理するための手段でもあります。その全体像を理解することで、日々の実務の意味がより深く見えてくるはずです。
建築プロジェクトでは、設計の各段階において工事費を確認し、予算との整合を図ることが求められます。では、設計段階の積算とはどのような目的で行われ、発注者と設計者はそれぞれどのような役割を担うのでしょうか。今回は、企画・基本設計・実施設計という設計フェーズごとに、積算の役割と留意点をわかりやすく解説します。
はじめに
設計段階の積算は、設計内容を工事費として具体化し、事業予算との整合を確認するために行います。主な目的は次のとおりです。
- 工事費の把握:設計した建物を施工するために必要な費用を算出します。
- 予算の確認:発注者が設定した予算の範囲内で建設できるかを確認します。
- 設計内容の調整:工事費が予算を超える場合は、仕様、材料、構造などを見直します。
- 発注金額の算定:公共工事などでは、予定価格を算出するための基礎資料とします。
設計の各段階における発注者と設計者の役割を整理すると、次のようになります。
観点 | 発注者 | 設計者 |
|---|---|---|
主な目的 | 事業予算の範囲内で、必要な品質・機能を実現する | 発注者の要望を設計に反映し、予算内に収まる建物を具体化する |
企画段階 | 事業費の上限や要求水準を設定する | 規模・用途・構造などから概算工事費を検討し、事業予算との整合を確認する |
基本計画段階 | 建物についての基本的な内容を比較検討し最適解を決定する | 建物の形態・構造・外装・設備などを比較検討し、予算と建物価値とを整合させる |
基本設計段階 | 概算工事費と予算の整合を確認し、実施設計の開始を判断する | 設計内容を数量や単価に置き換え、予算との整合を確認する |
実施設計段階 | 詳細な積算結果を基に、発注条件や予定価格を検討する | 図面・仕様書の整合を確認し、積算と施工に必要な情報を確定する |
コスト超過時 | 予算増額、仕様変更、工事範囲の見直しなどを決定する | 代替仕様や設計変更を提案し、コストへの影響を示す |
積算結果への責任 | 事業全体の予算管理と最終的な意思決定を担う | 積算の前提となる設計情報の正確性と整合性を担う |
主な目的
発注者
発注者は、事業の目的、必要な機能・品質、完成時期などを踏まえて、事業全体として許容できる予算の上限を定めます。積算結果は単なる工事費の確認ではなく、投資の妥当性や資金計画を判断する材料です。そのため、初期段階から「必ず実現したい条件」と「調整可能な条件」を整理し、設計者と共有することが重要です。
設計者
設計者は、発注者の要望を空間、構造、設備、仕様として具体化しながら、それらが設定予算の範囲に収まるかを継続的に検証します。意匠性や性能だけでなく、施工方法、維持管理性、調達条件も考慮し、費用の根拠を説明できる設計に整える役割を担います。
企画段階
発注者
企画段階では、建物をつくる目的、必要な規模・機能、品質水準、供用開始時期、事業費の上限を整理します。概算工事費には、工事そのものだけでなく、設計費、調査費、備品費、移転費などが含まれる場合もあるため、どこまでを予算の対象とするかを明確にします。また、将来の運用費や改修費も意識し、初期費用だけに偏らない事業判断を行います。
設計者
設計者は、敷地条件、用途、延べ面積、階数、構造種別、設備水準など、限られた情報から概算工事費を積上げます。参考に類似事例や床面積当たりの単価を用いる場合でも、建設地、工期、物価、特殊条件による補正を行い、概算の前提と精度を明示します。予算との乖離が見込まれる場合は、規模や要求水準の調整案を早い段階で示します。
基本計画段階
発注者
基本計画段階は、建物の大枠が確定する最も重要な段階です。設計者から提示された概算工事費と事業予算および発注者として考える建物価値との整合性を確認します。建物の形態・構造・外装・設備など、建物を構成する主要な要素について、比較検討し最適解を決定します。
設計者
設計者は、平面・立面・断面、構造計画、設備方式、主要仕上げが具体化した段階で、部位別・工種別に数量と単価を整理し、概算の精度を高めます。建物の形態、構造形式、杭工法、外装仕上げ、設備方式などについて、複数案を作成し、コスト、品質、工期、環境など多面的な検討を加え、最適解を求めて発注者に提案します。この段階で、事業の方向性が決まることになります。
基本設計段階
発注者
基本設計段階では、提示された概算工事費を確認し、要求した品質・機能と予算のバランスを判断します。すべての要望を同じ優先度で扱うのではなく、安全性、法令適合、事業目的に直結する機能を優先し、仕上げや付加機能などの調整可能な項目を整理します。将来の変更を避けるため、採用する仕様と見送る仕様について意思決定の記録を残すことも重要です。
設計者
設計者は部位別・工種別に数量と単価を整理し、メーカー見積等も活用して概算の精度を高めます。予算超過の兆候を把握した場合は、単なる減額案ではなく、性能、意匠、耐久性、維持管理への影響を比較できる形で代替案を提示します。設計の進行に伴う増減要因を管理し、発注者が判断できる情報に整えることが役割です。概算工事費と予算とが整合したことを確認し、実施設計段階に進みます。
実施設計段階
発注者
実施設計段階においては、公共工事では、詳細な積算結果を基に、予算内に収まっているかを最終確認します。また、積算結果を予定価格や発注条件の検討資料として用いるため、工事区分、支給品、別途工事、工期、入札条件などを明確にする必要があります。金額だけでなく、発注後の追加費用につながる不確定要素が残っていないかも確認します。一般の民間工事では、基本設計段階の概算を再度見直すことで、工事費が予算内に収まっているかを最終確認し、発注段階に進みます。
設計者
設計者は、図面、仕様書、数量調書の間に矛盾や不足がない状態まで設計情報を確定します。数量算出の対象範囲、材料・施工方法、設備能力、仮設条件などを明示し、積算者が同じ前提で数量および金額を算出できる資料を整えます。設計変更や未確定事項がある場合は、その内容と費用への影響を整理し、内訳書の根拠が追跡できる状態にします。
コスト超過時
発注者
積算額が予算を超えた場合、発注者は予算を増額するのか、要求水準を変更するのか、工事範囲を縮小・分割するのかを決定します。その際は、単に一律削減するのではなく、事業目的、安全性、利用者への影響、将来の運営費を踏まえて優先順位を付けます。判断の遅れは再設計や工程遅延につながるため、意思決定の期限と承認手続きを明確にします。
設計者
設計者は、超過の原因を数量増、仕様水準、単価上昇、工期・施工条件などに分けて分析します。その上で、代替材料、納まりの簡素化、設備方式の変更、範囲の見直しなどを提案し、削減額だけでなく、性能、耐久性、意匠、維持管理への影響も示します。採用された変更は図面・仕様書・積算条件に確実に反映し、削減効果を再確認します。
積算結果への責任
発注者
発注者は、積算結果を踏まえて事業全体の予算を管理し、最終的な意思決定を行う責任を負います。積算の前提条件や精度を理解した上で、予備費の設定、資金計画、発注範囲、変更承認のルールを整えます。また、設計者から示された選択肢について、事業目的と予算の両面から採否を判断し、その決定内容を関係者に共有します。
設計者
設計者は、積算および施工の前提となる図面・仕様書・設計条件の正確性と整合性に責任を持ちます。積算者が合理的に数量を算出できる情報を提供し、設計変更が生じた場合は、その範囲、理由、時期を明示します。ただし、価格変動や施工者固有の調達条件など、設計者だけでは確定できない要素もあるため、積算額の前提と不確実性を発注者に説明することが重要です。
コストとプライス——施工者の視点から
設計段階で算出する工事費は、図面や仕様を基に、材料費・労務費・機械費や経費などを積み上げた「コスト」です。これに対し、施工者が見積書として提示する「プライス」は、コストに現場管理費や一般管理費、利益などを加え、さらに受注環境や施工上のリスクを反映した金額です。両者は同じ工事を対象としていても、算定する立場と目的が異なります。
施工者は見積りに当たり、協力会社や資材メーカーからの見積価格、手配可能な人員、工期、施工条件、資材の納期などを具体的に確認します。また、繁忙期の労務確保、短工期による割増、価格変動、設計図書の未確定事項といったリスクも考慮して原価を算定します。そのうえで、営業的な観点から見積(入札)価格を決定するのです。そのため、設計段階のコストに十分な根拠があっても、市場の需給状況や発注条件によって施工者の営業判断がなされますので、当然プライスがコストより上回ったり、競争によって下回ったりすることもあるのです。
コストとプライスの乖離を抑えるには、適正なコストの算定とそれを物差しとしたプライスの予測および発注方式の検討が重要です。適正なコストを算定するには、設計の各段階で積算を更新し、施工者が価格に織り込む条件を早期に把握し、資材の調達状況や労務単価、工期、施工難易度を確認します。このように精度を高めたコストを物差しに、市場の需給状況や発注方式によるプライスレベルを予測し、目標コストとプライスが近づくような発注戦略を策定します。また、必要に応じて代替仕様、発注時期、工事区分などを見直します。積算の専門家や施工者の知見を設計段階から取り入れることで、発注時の価格変動に備え、予算と実勢価格の差を小さくできる可能性も高まります。
総括
設計段階の積算で重要なのは、企画、基本計画、基本設計、実施設計の各段階で、その時点の設計情報に応じた積算(概算)を行い、予算との整合を継続的に確認することです。つまり、各設計段階における積算(概算)とコストコントロールが重要です。発注者は事業目的と予算の優先順位を示し、設計者は設計内容と費用の関係を整理して、必要な調整案を提示します。施工条件や調達上の制約も早期に検討することで、設計と発注の間に生じる認識のずれを抑えられます。
そのため、発注者は予算と要求水準の優先順位を明確にし、設計者は価格変動や調達条件を確認しながら、代替仕様や工事範囲の見直しを適切な時期に提案する必要があります。一度積算して終わりではなく、設計の進行に合わせて費用を繰り返し確認し、変化の要因と影響を双方で共有することが重要です。積算は、変動する市場環境の中で建物の品質と事業予算を両立させるための、継続的な調整と意思決定のプロセスといえるでしょう。
次回予告|直接工事費とは?建築工事見積の内訳を解説
第6回では、建築工事の見積に登場する「直接工事費」「共通仮設費」「諸経費」など耳慣れない言葉について、積算に関わる人が知っておくべき見積の見方と注意すべきポイントを解説します。



.png)