KENGIセミナー東京#5 BIMを役立てる知の整備基盤の探索 2026年10月9日(金)イベントレポート

KENGIセミナー東京#5 BIMを役立てる知の整備基盤の探索 2026年10月9日(金)イベントレポート

#イベントレポート

最終更新日:2026/10/28

KENGI編集部

株式会社建築技術

KENGI編集部

2026年10月9日(金)、KENGIセミナー東京#5「BIMを役立てる知の整備基盤の探索」が東京都品川区の「KENGI HALL(建築技術セミナースペース)」で開催されました。

2026年4月にBIM図面審査が始まり、同年9月には国土交通省から「建築確認・検査におけるBIMデータ審査の導入に関する基本構想」が示されるなど、BIMを巡る制度環境は大きな転換期を迎えています。

本セミナーは、月刊『建築技術』2026年10月号と連動したプログラムであり、最前線で活躍する登壇者がそれぞれの視点から、BIMを単なる作図ツールではなく「知の整備基盤」として機能させるための考え方と実践について語りました。

KENGI HALL

KENGI HALL

【登壇者一覧】
大越潤氏(清水建設株式会社 生産技術本部 建設DX基盤部 リエンジニアリンググループ長)
古川智之氏(株式会社久米設計 DX本部 本部長)

第一講演:「構造設計モデルはBIM図面審査・データ審査にどう向き合うか」大越潤氏

大越氏講演のようす

見かけの好況と設計実務の圧力

大越氏はまず、建設投資額は名目で拡大する一方、着工床面積は減少し、構造設計の実務余力は増えていないことを示しました。投資額の拡大は、14年連続で上昇する公共工事設計労務単価や、2021年度以降に建築部門平均で38%上昇した資材価格によるところが大きく、設計実務の余力には寄与していません。限られた設計資源を「転記・照合」の単純作業から「知的判断」へ移すこと、その実現の条件が標準化であるという結論が、冒頭で提示されました。

BIM図面審査からBIMデータ審査の基本構想

BIM図面審査はPDF図面を正本とし、IFCは補助情報として参照される仕組みです。これに対し、2026年9月の基本構想で2029年春からの導入が示されたBIMデータ審査では、BIMデータそのものが審査対象となります。BIMデータ審査は「ビュー審査」と「デジタル審査」に細分化され、自動審査は当面対象外とされました。法20条に関係する構造の審査項目は優先検討項目に含まれておらず、構造審査の方法論は未具体化であることが明かされました。

そのうえで大越氏は、構造側から先に標準化すべき3つの軸として「属性」「連携性」「正本性」を挙げました。柱・梁・床組・標準図・特記仕様書などの属性を審査事項と対応付け、構造計算モデルとBIM構造モデルをST-Bridge/IFCでつなぎ、どのモデルを正本とするかを明確にすることが求められると語られました。

基本設計・実施設計で構造BIMをどう使うか

基本設計モデルは詳細化よりも分野間の意思決定の共有を優先し、実施設計モデルは申請図書の背後にある情報関係を説明できるものであるべきだとされました。また、床組・二次部材や外装材、基礎・杭など、一貫構造計算の外で別途計算される検討結果をモデルとどう結び付けるかが論点として示されました。床組を例に、部材符号・断面などは「モデルに属性として記述」、標準図番号・特記仕様書の条項は「モデルから参照」、個別の検討書は「別図書で管理」と整理する考え方が紹介され、「モデルに全部入れる」のではなく、どこを正本とし、どう受け渡すかを決めることが重要だと強調されました。

ST-BridgeとIFCについては比較するものではなく、同じ建物データベースから、構造分野内の詳細な連携にはST-Bridge、他分野・審査側との共有にはIFCと、用途に応じて出力し分けるべきだと語られました。

標準化は何をもたらすか

連携形式が揃っただけでは情報の意味は揃いません。標準化タスクフォースでは、名称に縛られない固有の「属性ID」を定義し、単位・情報粒度・入力の責任主体を揃えるアプローチを採っています。標準化の価値は「照合を速くすること」ではなく「照合対象を減らすこと」にあり、設計者が「判断」に時間を戻せるようになると語られました。

今後のステップとして、日本建築構造技術者協会(JSCA)で標準図・特記仕様書の属性を洗い出し、標準属性項目リストやST-Bridgeへ反映する取り組みが紹介されました。国の検討に先立ち構造側で下地を整えることで、自動審査を前提とした提案が可能になり、さらに構造データはLCCO2算定など環境性能評価にも展開できるという展望が示されました。「BIMの価値は、単純作業の効率化から知的判断へ」という言葉で講演は締めくくられました。

【大越潤氏プロフィール】
2000年工学院大学大学院修了後、大成建設で自動積算や構造設計BIMの基盤整備、鉄骨専用CAD連携の推進に従事。2021年より清水建設にて建設現場のデジタル化を牽引。2025年、芝浦工業大学大学院で博士(工学)取得。BIM活用と建設DXの最前線で実務をリードし続ける。

大越氏講演のようす

大越氏講演のようす

第二講演:「設計BIMを“やらない”デメリットとは?」古川智之氏

古川氏講演のようす

BIM図面審査で変わる設計者の責任

古川氏がBIMを始めたきっかけは、入社1年目に担当した延べ面積65,000㎡の病院で、2D-CADと3Dモデルの不一致や面積・仕上表の集計ずれの修正に追われたBIMをやらないデメリットを経験したことでした。2026年4月に始まったBIM図面審査では、入出力基準に従ってBIMデータを作成したことを誓約書として提出します。設計者の責任は「図面に記載された明示事項」から「BIMデータの作り方」へと移りつつあるとも言え、今こそ設計者が真剣にBIMと向き合うチャンスであると語られました。

同社は2025年にBIM VISION「新しい創造の力を」を掲げ、原則全案件をBIM対象とし、設計者が自らBIMを扱うことを明文化しました。指標も案件率ではなく「BIMユーザー率」とし、2025年度末の約30%から2027年度以降に100%を目指すとしています。講演では、設計BIMを“やらない”デメリットとして次の3点が挙げられました。

デメリット1:設計中のBIMの恩恵を享受できない

ある総合病院の設計事例(延床面積約32,000㎡)では、基本設計5カ月・実施設計4カ月という短い期間のなか、着手時からRevitで設計し、ゾーニングの色塗りや面積集計の自動化、プランと整合したパース・立面図により、スピーディーな検討が実現しました。

2025年6月に竣工した某福祉施設+病院の複合施設(延床面積約18,000㎡)では、5mの高低差がある敷地に人工地盤を設け、その上に250人の居住空間を配置しました。設計の最初から最後までBIMで設計し、簡易なモデルから段階的に発展させる「アジャイル型」の設計を実践しています。1階と2階で通り芯がすべて異なる構成となったため、意匠と構造の整合確認はすべてBIMモデル上で行ったことが明かされました。

一方、かつて「BIM案件率」を追った時期には、設計者のCAD図面をBIMオペレーターや外部委託がなぞる「二人羽織BIM」が横行し、2つの図面の整合に翻弄されたといいます。後追いのBIMでは設計途中のメリットを享受できないと指摘されました。

デメリット2:Single Source of Truthの喪失

BIMの空間オブジェクトでは、図面上の室名や面積の文字は「名札」にすぎず、情報の本体はオブジェクト側にあります。仕上表、平面図の表記、仕上げに応じた着色がすべて一致するのは、同じ情報を参照しているからであり、このSingle Source of Truth(信頼できる唯一の情報源)こそがBIMの整合性の本質だと語られました。建具表とキープランを行き来しながら性能・仕様を決めていく実演も示され、BIMは単なるドラフティングの道具ではなく設計プロセスを強化する武器であるとの考えが示されました。BIM図面審査の入出力基準も、この原則に則って図面が作図されているかを確認する一例と説明されました。

デメリット3:AI時代の「データ資産」を持てない

AIの活用事例として、パース生成AI、IFCモデルの解析、MCP(Model Context Protocol)を介したRevitの操作が紹介されました。特に、同社の仕上げデータベースとAIを連携させ、室名から仕上げのプリセットを提案させる事例では、こうした活用が蓄積された構造化データがあって初めて成り立つことが強調されました。

同社は2026年度からAutodesk Forma Data Managementを全社のデザインレビューの基幹システムとして採用し、ベテランのレビュアーとも40回以上の協議を重ねて運用ルールを整備しました。CDE上で指摘事項を日常的に蓄積することで、将来的にはAIによる一次レビューを実現し、レビュアーは人にしか判断できない論点に集中できる体制を目指していると語られました。

講演の最後には、BIM・AIを武器として携える建築設計版「FDE(Forward Deployed Engineer)」という設計者像が提示されました。AIが発達したからBIMをやらなくてよいのではなく、むしろ今こそ真剣にBIMと向き合うチャンスであると締めくくられました。

古川氏講演のようす

古川氏講演のようす

【古川智之氏プロフィール】
2012年 久米設計に入社。主に医療施設の意匠分野で自らBIMを用いて設計。2026年より同社 DX本部 本部長を兼任し、BIMやAIの全社展開を推進。2026年4月よりRevit User Group Japan(RUG)会長に就任。ほかJIA BIM特別委員会 委員など

登壇者集合写真

登壇者集合写真

「KENGIセミナー」は今後も全国各地で開催を予定しております。
今回の講演内容、および今後のデジタルプラットフォームの展開にご期待を寄せる皆様のご参加を心よりお待ちしております。

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