
KENGIセミナー東京#3 大阪・関西万博にみるリユースへの構造設計者の提案 2026年8月28日(金)イベントレポート
最終更新日:2026/09/08

株式会社建築技術
KENGI編集部
第3回となる「KENGIセミナー東京#3 大阪・関西万博にみるリユースへの構造設計者の提案」が、2026年8月28日(金)に、東京都品川区の「KENGI HALL(建築技術セミナースペース)」で開催されました。
当日は、大阪・関西万博のシンボルである「大屋根リング」の構造設計プロセスについてや、「ポップアップステージ(西)」の事例を通じ、「祭」をコンセプトとした仮設・可動建築の可能性について、最前線で活躍する登壇者がそれぞれの視点からリユースへの取り組みや知見を共有しました。
本記事では、技術者同士の多様な学び合いと交流の場となった当日のセミナーの模様と、登壇者たちが語った構造設計へのアプローチについてレポートします。

KENGI HALL
【登壇者一覧】
林 将利氏(株式会社梓設計 構造部門 構造部 チーフエンジニア)
江村 哲哉(Arup アソシエイト/構造2リーダー)
冒頭、株式会社建築技術 阿部夏海より、開会の挨拶とともに本セミナーの趣旨が説明されました。

株式会社建築技術 阿部夏海による挨拶
第一講演:「大屋根リングでの試み」株式会社梓設計 構造部門 構造部 チーフエンジニア 林 将利氏
第一講演では、大阪・関西万博のシンボル「大屋根リング」の構造設計プロセスと、それに込められた技術的挑戦が明かされました。
建築面積約61,035㎡に及ぶ本建築は、世界最大の木造建築物としてギネス世界記録にも認定されています。「多様でありながら、ひとつ」を会場デザインコンセプトとし、世界とつながる「海」と「空」を感じられるロケーションを生かし、多様なコラボレーションによって実現した成果であることが提示されました。

大屋根リング全景(撮影:楠瀬友将)
プロポーザル時より3.6mグリッドをモジュールとした木架構ユニットを放射状に連続配置する製作・解体・転用に配慮した架構システムを提案。今後の中大規模木造における標準的な断面寸法の規格化や汎用性についても見据え、断面寸法のモジュールは105mmまたは120mmの倍数として接合部等のスタディを進めた経緯が提示されました。
結果的に、神社仏閣などの日本の伝統木造建築に使用されてきた「貫接合」と現代の構造技術を融合させることで、斜材や耐力壁を用いない「2方向純ラーメン構造」の大規模木造が実現しました。
清水寺の舞台をはじめとする日本の伝統工法をベースに、従来の「繊維直交方向のめり込み」から「繊維方向のめり込み」へと抵抗メカニズムを補強・アップデートし、鋼板プレートやLSB(ラグスクリューボルト)等を組み込むことで、現代の要求性能に応える高い接合部性能を構築しました。
実施設計段階では、北東工区を大林組、南東工区を清水建設、西工区を竹中工務店が担当。各社が組織の垣根を越えて実験結果や検討内容を共有し、強固な協調体制のもとで実施設計を推進。最終的には、外周側と内周側の建物高さの差や荷重偏心に伴う地震時のねじれ変形を緩和するため、剛性・耐力の異なる3タイプ(低剛性タイプ,標準タイプ,高耐力タイプ)の貫接合が各社それぞれ開発されました。さらに、部材に傷をつけず迅速に施工できる「締め付け治具」の開発など現場での工夫も実を結び、予定より約2か月早い上棟を実現しました。国産材を約70%使用したこの大屋根リングは、カーボンストックとしての役割を果たすとともに、解体後の再利用・移設や一部保存を通じ、中大規模木造建築のレガシーとして未来へ継承されていく姿勢が語られました。
【林将利氏プロフィール】
・1987年東京都生まれ。2010年早稲田大学理工学部建築学科卒業、2012年早稲田大学大学院創造理工学研究科建築学専攻修士課程修了。2012年株式会社梓設計入社。現在、同社構造部門構造部エグゼクティブダイレクター、チーフエンジニア。構造設計一級建築士。主な受賞につくばみらい市立陽光台小学校(日事連建築賞 一般建築部門・優秀賞)、東海村歴史と未来の交流館(茨城建築文化賞優秀賞)、たかはぎ認定こども園(茨城建築文化賞最優秀賞)など。


林氏講演のようす
第二講演:「祭りのため小さな仮設的可動屋根を建てる」Arup アソシエイト/構造2リーダー 江村 哲哉氏
第二講演では、大阪・関西万博における若手建築家20組による施設整備事業の一環として手がけられた「ポップアップステージ(西)」の構造デザインと、仮設・可動建築としての技術的アプローチが明かされました。
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ポップアップステージ(西)提供:JUMPEI SUZUKI
本事業は1980年以降生まれの若手デザイナーに挑戦の場を提供する試みであり、三井嶺建築設計事務所とArupがタッグを組んで取り組んだプロジェクトです。
コンセプトは「祭」。諏訪大社御柱祭などの祭に見られるように、「2本の柱が人間のつくる場の目印になる」という考えから、柱2本と浮遊する丸太梁、そして前後に傾斜する「可動屋根(可動フレーム)」からなるシンボリックな仮設空間が計画されました。
構造システムとしては、2本のピン柱と鉄骨トラス屋根を、4本のステイロッド(丸鋼・引張材)のみで安定化させる構成を採用。あらゆる方向の外力に対し常に2本以上が引張抵抗する仕組みとし、RC基礎スラブ内で内力を完結させることで、滑動や転倒への抵抗力を確保しました。また、柱にはエンタシス形状(中央が太く上下が細い)を施したステンレス鋳物の細柱を採用し、力学的な合理性を追求しながら丸太の存在感を際立たせています。
施工プロセスや移設性においても、「つくること自体が祭り(イベント)の一部となる」という斬新な試みが取り入れられました。重さ1t規模に及ぶ生の松丸太(内部ロッドで引張応力を負担)をボランティア参加者らの人力で立ち上げる「柱梁の建て起こし」や、青々とした松葉を屋根に葺くワークショップを実施。作業時には傾斜できる可動屋根自体が足場・作業支援として役立てられました。
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建て起こしのようす 提供:三井嶺建築設計事務所
最後に、万博終了後を見据えたArupの循環型設計アプローチとして、ボルト接合によるシステムトラスの再構築(「いのちの遊び場 クラゲ館」の膜屋根・創造の木の福山市への移設)や、複数回の移設・再構築を可能にする設計技術(2020ドバイ万博から大阪万博、さらに2027年横浜国際園芸博覧会へと引き継がれる「ウーマンズ パビリオン」)などの事例が紹介され、建築が2度、3度と生まれ変わり継続していく未来像が提示されました。
【江村哲哉氏プロフィール】
・2008年Arup入社、東京事務所勤務。2025年から構造2リーダー。主な担当作品に直島ホール、大分県立美術館、おりづるタワー、ショウナイホテル・スイデンテラス、水戸市民会館など。2015~2016年武蔵野美術大学非常勤講師、2022年~工学院大学非常勤講師。構造設計一級建築士。


江村氏講演のようす

登壇者集合写真
次回「KENGIセミナー東京#4」は、9月18日(金)にKENGI HALL(東京都・五反田)にて開催予定です。
今回の講演内容、および今後のデジタルプラットフォームの展開にご期待を寄せる皆様のご参加を心よりお待ちしております。
【開催概要】
KENGIセミナー東京#4 中大規模木造建物の施工管理の注意ポイント
日時 2026/09/18 15:00-18:00
締切 2026/09/17 17:00
会場 〒141-0031 東京都品川区西五反田7-7-7 SGスクエア4階 KENGI HALL(建築技術セミナースペース)
定員 48名
対象者 技術者、施工者等
参加費 5,000円(税込)
CPDポイント 2単位
主催:株式会社建築技術
共催:株式会社フォトラクション
後援:一般社団法人東京都建築士事務所協会、一般社団法人 東京建築士会、一般社団法人 東京構造設計事務所協会
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