「研究/技術開発者へのエール」(1) 研究開発・技術開発って、誰がどんな仕事をしているの?

「研究/技術開発者へのエール」(1) 研究開発・技術開発って、誰がどんな仕事をしているの?

#研究開発のイロハ

最終更新日:2026/07/27

染谷俊介

デジタルコンストラクション染谷技研 代表 独立コンサルタント・技術顧問(複数社)

染谷俊介

2007−2025年、株式会社竹中工務店の技術研究所で建設DX分野のR&D・実務適用や、本社BIM推進部門立ち上げに携わる。専門であるBIM・3D測量技術は業界標準化にも携わる。2025−2026年に総合コンサルファームにて戦略コンサルマネージャー(管理職)を経験。現在は建設DX分野の技術顧問・コンサルティング業を独立開業。博士(工学)。一級建築士。

「組織の論理ではなく、技術の代弁者たれ」――なぜこの連載を書くのか

「ゼネコンの研究所は200人いたら200人全員が頭良いからね、頑張って」。私が大学時代の恩師から贈られた言葉だ。大学院を出て、まさにゼネコンの研究所への採用が決まった時のことである。今でもこの言葉を鮮明に覚えている。その後私は、株式会社竹中工務店の技術研究所で18年少々を研究者(技術開発職能)として活動し、総合コンサルティングファームでの戦略コンサルタント管理職を経て、現在は独立起業して個人で技術顧問・アドバイザリー業を営んでいる。

ゼネコンの技術研究所とは、冒頭に紹介した言葉の通り「銀河系集団」だと私は思っている。数十年来、企業の頭脳として新しい材料、新しい機械、新しい工法を生み出してきたスーパーマンたちの集まりだ。今でも地頭の良い、素晴らしい人材が集まっている場所であることに変わりはない。

しかし、近年その様相が変わってきたと、中にいた人間として強く感じている。i-Constructionに象徴される生産性革命、深刻化する担い手不足、脱炭素や人的資本経営という新たな社会要請――建設業を取り巻く環境が激しく変化する中で、技術系の本社組織は権限や規模を拡大してきた。その結果、研究所は独立した「聖域」ではなく、本社系技術部署の一つに組み込まれるようになった。短期間での成果や費用対効果も、以前より遥かに強く求められる。「組織の論理」「企業利益」が大上段に構え、研究者個人のキャリアや想いが後回しにされる場面を、私は何度も目にしてきた。若手が入社早々にキャリアに悩み、中堅のエースクラスが突然転職・独立していく――そういう場面を、数えきれないほど見てきたというのが正直なところだ。

皮肉なのは、こうした変化が起きている最中にも、建設業界にとって技術開発の重要性はむしろ高まり続けているという事実だ。BIM、ロボティクス、生成AI、フィジカルAI――現場を変える新しい技術の多くは、結局のところゼネコンの技術研究所という「頭脳」から生まれてくる。担い手が減り、生産性向上が待ったなしになるほど、本来であれば研究開発への投資と敬意は厚くなるはずだ。それなのに、担い手である研究者自身の立場は必ずしも安泰とは言えない。この逆説にこそ、今このコラムを書く意味があると私は考えている。

私は、研究者という人間の味方でありたい。そして、技術そのものの味方でありたいと思っている。このコラムは、今まさに悩んでいる技術系人材の皆さん、これから研究職を志す皆さんを主たる読者として想定し、皆さんへのエールとして、個のキャリア形成に役立つ“仕事のイロハ”を綴っていきたい。組織の論理ではなく、技術の代弁者たれ――それが、この連載を貫く私なりの一本の軸だ。

全10回程度を予定しているこの連載では、研究開発・技術開発という仕事の実像から始め、立場別の向き合い方、テーマ設定と予算獲得の技法、研究管理の実務、学協会活動の戦略的活用、キャリアとライフイベント、そして具体的なケーススタディまで、順を追って綴っていく。第1回となる今回は、まず「研究開発・技術開発とは、そもそもどんな仕事なのか」を、できるだけ具体的に描いてみたい。

研究開発・技術開発とは何か――組織の中のポジションと仕組み

研究開発・技術開発とは何か。一般的な定義から入ろう。多くのゼネコンでは「技術研究所」というような名前で本社組織に位置づけられている。事業部――つまり実際の設計や施工管理を担う部門――とは別枠であり、直接の実務には携わらない。人事制度上は他の総合職と同じ扱いを受けることが多く、ゼネコンは多少の成果報酬や出世の早い遅いはあれど、基本的には年齢給がベースだ。花形のように見えて、組織図の上では意外と地味な位置づけにある――これが、外から見えにくい研究開発職の実像の一つ目のギャップだ。

新卒採用は、一般応募とは別枠の「一本釣り」の本社採用であることが多く、年間数名程度にとどまるケースが大半だ。加えて、社内で実務経験を積んだ事業部門の社員が、研究部門へ異動してくるパターンもある。つまり、必ずしも入社時点で「研究者」というキャリアが確定しているわけではなく、複数の入り口がある仕事だと言える。この「入り口の多様さ」は、後の回で扱うキャリアの選択肢の広さにも繋がってくる論点だ。

大学との関わりも深い。社会人博士として大学院に籍を置きながら研究を続ける研究員がいる一方、大学の研究室と共同研究契約を結び、外部の知見を取り込みながらテーマを進めるケースも珍しくない。産学連携は、ゼネコンの技術研究所にとって「自前主義」を補完する重要な手段であり、博士号取得者の多くはこうした大学との接点を通じてキャリアを積んでいる。

では、実際にどれくらいの規模の人材がこの仕事を支えているのか。感覚的な話だけでは説得力に欠けるので、大手ゼネコン5社の公式資料から、一級建築士・技術士・博士号の保有者数を比較してみた(表1)。

表1 大手ゼネコン5社の技術系保有資格者の人数比較(公開資料を基に筆者作成)

項目

竹中工務店

大林組

清水建設

鹿島建設

大成建設

一級建築士

2,410人※1

未開示※2

2,014人※3

2,470人※4

2,539人※5

技術士

192人※1

未開示※2

812人※3

854人※6

未開示

博士号

127人※1

未開示

171人※3

未開示

未開示

従業員数

7,907人

9,472人

11,434人

8,854人

8,994人

※1 2026年1月現在(竹中工務店「数字で知る竹中工務店」/コーポレートレポート2026データ編)
※2 大林組ESGデータブックでは個別人数を非開示。「重点資格保有率」82.1%(2024年度、資格を合算した独自指標)として開示
※3 2026年5月現在(清水建設「会社概要」2026年5月版)
※4 2024年度末=2025年3月末時点(鹿島建設「統合報告書2025」)
※5 2025年3月31日時点(大成建設「ESGデータ(社会)」)
※6 2023年度末時点。最新の「統合報告書2025」には技術士人数の記載なし(前年版「統合報告書2024」より)

数字を見て気づくのは、竹中工務店・清水建設・鹿島建設・大成建設のいずれも、一級建築士だけで2,000人を超える規模の有資格者を抱えていることだ。技術士や博士号の保有者数は各社で開示の粒度が異なり、大林組のように個別人数を開示せず「重点資格保有率」という形でまとめて示す企業もある。単体か連結か、集計時点が2025年3月末か2026年1月かといった違いもあり、単純な横並び比較には注意が必要だが、それでも「一社あたり数百人規模の高度専門資格者が、実務とは別の組織で技術を支えている」という構造そのものは、5社に共通して見えてくる。博士号取得者が一級建築士や技術士に比べて一段少ない水準にとどまっている点も、業界特有の傾向として読み取れる。実務経験と学位の両方を積み上げるキャリアが、まだ主流ではないということの裏返しでもあるだろう。

具体的に何をしているのか――テーマ設定・予算・評価のリアル

研究所の中はさらに、技術分野ごとの大きなチームに分かれている。建築生産チーム、地盤基礎チーム、材料チーム、環境チーム、解析・AIチームといった具合だ。研究員一人ひとりが専門分野・専門技術を持ち、自社の実務に役立つ新規設計手法の開発、材料開発、構工法開発、ロボット・ソフトウェア開発、アルゴリズム開発など、様々なテーマに取り組んでいる。

基本的な進め方は、研究員個人がテーマをボトムアップで企画立案し、そのテーマに予算がつき、独立採算的に研究・開発活動を実施するというスタイルだ。近年は、会社の経営方針と足並みを揃えるため、トップダウンで重点開発分野を設定し、開発実施者を社内公募するケースも増えてきている。企画自体は数年単位での成果創出を見据えて立てるが、予算は会計の都合上、単年度で予算付け・消化されることが多い。「数年かけて育てるべきテーマ」と「単年度で成果を求められる予算」の間には、構造的なズレがある――これは、研究者であれば誰もが一度は直面する悩みだろう。

この予算規模がどの程度のものか、大手ゼネコン5社の直近の有価証券報告書・決算短信から研究開発費を比較してみた(表2)。

表2 大手ゼネコン5社の研究開発費比較(公開資料を基に筆者作成)

企業名

竹中工務店

大林組

清水建設

鹿島建設

大成建設

研究開発費

(連結)

102億円
(2025年12月期)

163.93億円
(2025年3月期)

212.74億円
(2025年3月期)

222.07億円
(2025年3月期)

195.03億円
(2025年3月期)

単体売上高

(直近年度)

1兆5,237億円

1兆5,881億円

1兆4,807億円

2兆2,257億円

1兆7,340億円

いずれも連結ベース。各社の直近の有価証券報告書・決算短信より(出典は末尾参照)

各社とも年間100億円台から200億円台の研究開発投資を行っていることが分かる。会社の規模から見れば決して小さな金額ではないが、売上高全体に対する比率で見れば、製造業の研究開発型企業と比べて高い水準とは言えない。ただし、会計年度末が3月期の企業と12月期の企業が混在しており、単純な横並び比較にはなじまない点は付け加えておきたい。

成果物としては、論文執筆、特許出願、プロダクト開発(材料、機械、製品など)が代表的だ。評価方法は、費用対効果(投資金額に対する実務適用でのコスト削減効果・生産性向上効果など)と、受注貢献(◯◯億円規模の工事受注◯件、そのうち何%程度が当該技術の貢献と言えるか)という、二つの指標が軸になることが多い。この「評価指標」こそが、次回以降お伝えしたい研究者の悩みの核心に深く関わってくる。数年単位で育てるべき技術を、単年度・受注貢献という物差しで測られることの窮屈さ――それを実務としてどう乗りこなすかが、研究者としての力量の見せどころでもある。

論文や特許は、社内評価だけでなく社外との接点を作るという意味でも重要だ。学会発表や論文執筆を通じて外部の専門家コミュニティに認知されることは、研究者個人の「社外の評判」を築くことに直結する。この社外評判こそが、後の回で触れる「社内の論理に流されない独立した研究者としての軸」を支える土台になっていく。

次回予告

次回以降は、具体的に研究者が何を考え、どう研究活動を進めているのか、今どこに悩みや課題を抱えているのかを、より踏み込んで綴っていく。次回のテーマは「なぜ今、エンジニアリングが必要か」だ。経営層が「コスパ」や「早期投資回収」を求めてくるとき、研究者はどうやって「技術の真実――ノウハウの蓄積には時間がかかるという事実」を突きつけるべきか。そのとき武器になるのが、博士号や論文、学協会活動といった「社外の権威」だ。日本のゼネコンが世界で戦えたのは、現場と研究が密着していたからだと私は考えている。近年増えてきたスタートアップやコンサルへの丸投げ外注の多用は「短期的な薬、長期的な毒」になりかねない――そんな視点から、研究所の存在意義を改めて問い直してみたい。

参考資料

● 竹中工務店「数字で知る竹中工務店」(https://www.takenaka.co.jp/corp/numbers/、2026年7月17日確認)
● 竹中工務店「コーポレートレポート2026 データ編」(https://www.takenaka.co.jp/enviro/es_report/pdf/2026/p82-86.pdf
● 竹中工務店 有価証券報告書 第88期(https://www.takenaka.co.jp/corp/bspl/pdf/2025_88.pdf)「研究開発活動」
●   大林組「ESGデータブック」(https://www.obayashi.co.jp/sustainability/esg_data.html
●   大林組 2025年3月期決算短信(https://data.swcms.net/file/obayashi-ir/dam/jcr:222b47d0-9b48-438d-be09-322337efbdf6/140120250303587084.pdf
●   清水建設「会社概要」2026年5月現在(https://www.shimz.co.jp/company/about/report/pdf/corporateInformation2026.pdf
●   清水建設 2025年3月期決算短信(https://pdf.irpocket.com/C1803/vAfC/mTyJ/IzSe.pdf
● 鹿島建設「統合報告書2025」(https://www.kajima.co.jp/sustainability/report/2025/pdf/ir_p13-22.pdf)/「統合報告書2024」 (https://www.kajima.co.jp/sustainability/report/2024/pdf/ir_p5-14.pdf
● 鹿島建設 2025年3月期決算短信(https://www.kajima.co.jp/ir/finance/pdf/kessan-20250514-j.pdf
●   大成建設「ESGデータ(社会)」(https://www.taisei-sx.jp/esg_guide_line/esg/pdf/social_data.pdf
●   大成建設 2025年3月期決算短信(https://finance.stockweather.co.jp/contents/dispPDF.aspx?disclosure=20250512541820

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