構造設計の正解は一つじゃない!力をイメージして構造解析で確かめる

構造設計の正解は一つじゃない!力をイメージして構造解析で確かめる

#構造設計のイロハ

最終更新日:2026/09/29

沖原 圭佑

Fortec Architects株式会社

沖原 圭佑

大手建設会社に11年間、構造設計者として従事。工場・研究所・教育関連オフィス・ホテルなど、様々な建物種別に携わった。その後、ライティング技術を身に付けて建築ライターとして独立。建築・不動産・建設DXなど、幅広い建設・建築コンテンツの執筆を手掛けながら、ベンチャー企業の施工管理アプリ開発のアドバイザリー業務なども行っている。現在はFortec Architectsの構造エンジニア兼建築ライターとして活動中。

建築プランを受け取ったとき、「鉄骨造でもできるし、RC造でもできるな」と感じるときはありませんか?その感覚はとても大切なもので、いくつものソリューションを思いつける力は、構造設計者として強みになります。実務の中ではコストが大きな決定要因になりがちですが、コストは市況に応じて変化するものです。構造的に合理性の高い選択肢を持っていることは、状況に合わせた対応力に繋がるのです。

今回は、多くの選択肢を持てる構造設計者を目指すために意識すべきことをお伝えします。

正解を見つけるには比較が大切

そもそも構造設計の正解とは何でしょうか。力学的に美しい、つくりやすい、意匠を引き立てられる、設備設計への配慮、省材料低コストなど、さまざまな要素がありますよね。この中のどれが大きな割合を占めるかは、建築主の意向、建物の用途や意義、市況などによって変わってきます。

そのため、正解を導くためには複数の案を比較しながら重要な要素を見極めることが大切です。コストであれば、RC造と鉄骨造、ブレース構造とラーメン構造などを比較することで構造設計者だけでも正解を見出すことができますが、その他の要素は意匠・設備設計者や施工者の他、建築主の意見も聞く必要があります。

基本的には建築設計者がこれらの比較作業をリードしてくれますが、構造設計者の意見も重要な要素になるので積極的に協力しましょう。

まずは力の流れをイメージしながら案を出す

先ほどはプロジェクト全体における比較について述べましたが、ここからは構造設計に限定して話をします。

合理的な構造設計を考えるとき、以下のような比較項目が考えられるのではないでしょうか。

  • RC造、鉄骨造、木造
  • 耐震構造、免震構造、制振構造
  • ラーメン構造、ブレース構造
  • 小梁の架け方(X方向、Y方向、十字、フィッシュボーンなど)

ブレースを設置するにしても、各フレームに納めるのか、複数回にわたって大きなブレースを入れるのかなど、多くの考え方があります。

ここで大切なのは、建物の形状を見ながら、力の流れをイメージしながら案を出していくことです。慣れないうちは力の流れをイメージするのも難しいため、正しくイメージできていなくても構いません。とにかく自分なりに建物形状から力学的特性を想定し、建築プランに単線図で柱・梁・ブレースなどを書き込んでみましょう。複数の案を考えて比較検討を行うことができれば、さらに明確に建物の特性が見えてきます。

この作業をせずに構造解析を始めてしまうと、力の流れをイメージする能力が身に付かず、なかなか力学的センスを磨けません。私の恩師は、「構造力学はいつ始めても遅くない」と言っていました。構造解析ソフトは非常に使いやすいですが、自分の頭で力の流れをイメージすることを意識づけ、センスを磨いていきましょう。

構造解析で確かめる

自分なりにイメージした力に合わせて部材をレイアウトできたら、構造解析を進めていきます。構造解析で答え合わせをするような感覚ですね。解析が完了したら以下のポイントを確認してみてください。

応力図 :自分がイメージした応力図になっているか

  • 重心と剛心の位置 :偏心してバランスが悪くなっていないか
  • 層間変形角 :全体・部分の変形が大きくなっていないか
  • ヒンジ :梁降伏型になっているか、基礎梁にヒンジができていないか
  • 保有水平耐力 :保有水平耐力は確保されているか、靭性は機能しているか

許容応力度設計で重要な「検定比」は、あえて上記には挙げていません。すぐに検定比を見るクセが付いてしまうと、応力図を見なくなってしまい、その結果、力の流れをイメージしなくなってしまうからです。私も若い頃に検定比ばかり見るクセが付いてしまい、建物の弱点を見抜く力が身に付きませんでした。応力図や断面算定表(モーメントなどの数値がまとめられた表)をしっかり見るようにすることで大きな力が発生している部分が明確になり、一つの部材の中でも左端・中央・右端のどこが厳しいのかといった状態を詳細に把握できるようになります。

違和感に気づける直感力を磨く

力の流れをイメージして構造解析で答え合わせをしていると、応力図に違和感を覚えることがあります。この違和感に気づける直観力を磨くことは構造設計者にとって非常に大切なことで、大きなミスを減らすことに繋がります。私が実務で経験した一つ例を挙げてみましょう。

上図のように、2層にわたってブレースを設置したとします。このとき、中間の梁に非常に大きなせん断力が発生していました。これはおかしいと思いつつも、すぐに原因を見つけられず悩んでいたところ、先輩は一発で原因を言い当てました。

正解は、「ブレースの節点が少しずれていたから」でした。節点が同一でブレースが2層にわたって繋がっていればこのようなせん断力は発生しませんが、手入力のせいで節点が少しずれていたためにせん断力が発生していたのです。このとき、私は2つのことを学びました。

  • 想定外の力を発見したら、モデルの入力を疑うことも大切
  • 実際のディテールでブレースの軸線を通していないと、想定外のせん断力が発生する

このように、構造設計を通して力学的な直観力を磨いて違和感に気づき、実際のものづくりに落とし込んでいくことは、非常に大切なことだと思います。

提案力は構造設計者の力になる

構造センスを磨き、さまざまな提案をできるようになると、その提案力が構造設計者に力になります。建築主や意匠・設備設計者の要望に応えられるようになりますし、施工性に配慮した設計の幅も広がります。また、より提案力の高い構造設計者は、プロジェクトのなかで工法やデバイスを開発してしまうことも可能です。実際、各社が独自に開発している柱RC梁S造といった工法や免制震デバイスなどの製品は、構造設計者が実現したい建物のために開発されたものも少なくありません。若いうちにどんどん手を動かして比較検討を行い、力学的センスや提案力を磨いていきましょう。