「南雄三Sketch展 2026」開催 ~人が集まる場を生み出す~

「南雄三Sketch展 2026」開催 ~人が集まる場を生み出す~

#イベントレポート

最終更新日:2026/11/05

KENGI 編集部

株式会社建築技術

KENGI 編集部

日本の住宅業界において、専門誌『建築技術』をはじめとする各種技術メディアで「パッシブ・環境」の監修者・論客としておなじみの住宅技術評論家、南雄三氏。温熱環境や省エネ設計の第一線で実務者に多大な影響を与え続けてきた南氏ですが、ライフワークとして30年近く継続しているもう一つの探求が「スケッチ」です。

神楽坂の「AYUMI GALLERY」にて、通算26回目となる「南雄三Sketch展 2026」が10月2日(金)~10月7日(水)の5日間にわたり開催されました。

会場となった神楽坂の「AYUMI GALLERY」は、1920年代に英国へ渡り、ロンドン大学のバートレット・スクール・オブ・アーキテクチャで建築設計を学んだ建築家・高橋博氏(1902〜1991)が、1953年に自身のアトリエ(高橋建築事務所)として建てた木造建築です。のちに娘婿で建築家の鈴木喜一氏に引き継がれ、1984年に1階がギャラリーとして開廊しました。2011年には国の登録有形文化財(建造物)に登録されています。

妹のBUNKO氏とのコラボレーションでもある本展は、単なる絵画の展示会にとどまらず、手作りの豆本や立体作品、塗り絵など、訪れる人を童心に返らせるような遊び心に満ちた空間として愛され続けています。しかしその中には、住宅技術評論家としての南氏のロジックが込められていました。

本記事では、会場で出会った景色と作品たちを、写真とともに振り返りレポートします。

AYUMI GALLERY(東京・神楽坂)

AYUMI GALLERY(東京・神楽坂)

【概要】
南雄三Sketch展 2026(南雄三&BUNKO スケッチ展 2026)
会期:2026年10月2日(金)〜10月7日(水)
開場時間:11:00〜18:00(初日は13:00から)
会場:AYUMI GALLERY(東京都新宿区矢来町114)
展示作品を紹介する動画「南雄三スケッチ展2026」(YouTube)

テーマ提案展示「電柱は邪魔か or 愛おしいか」

南雄三スケッチ展において、毎年来場者の知的探求心を刺激する目玉企画が「テーマ提案展示」です。

1回目のテーマはガスメーター、2回目は室外機、3回目は樋で、いずれも「カワイクしよう」と呼びかける企画でした。そして4回目となる今回のテーマは「電柱は邪魔か or 愛おしいか」。

会場には、この問いを巡って描き下ろされた10枚の連作スケッチが並び、さらに15点のスケッチと考察を収録した同名の作品集(手作りブックレット)も用意されました。

南雄三氏

「電柱は邪魔か or 愛おしいか」の問いに、来場者がシールを貼って答えるアンケート

ガスメーター、室外機、樋と、これまでも南氏は街や建築の表層ではなく、設計者が図面から消し去りがちな“街のリアリティ”に着目してきました。南氏は「絵を描くとわかるけれど、電信柱があると(構図として)実に美味しい。けれど、街並みそのものが整っていると邪魔になる」と語りました。近代的な景観論や無電柱化(電線地中化)の文脈においては、電柱は真っ先に排除すべき視覚的障害物とされるかもしれません。しかし、いざ画角を決めるとき、画面の手前と奥を切り分ける垂直の支柱、空を斜めに切り裂く架線、無骨なトランス(変圧器)の塊は、街に豊かな陰影と遠近感、そして生々しいヒューマンスケールをもたらす強力なストラクチャーへと変貌するでしょう。電柱を描き込むことで、構図には生活の息遣いと立体的な奥行きが宿ります。

一方で、ヨーロッパのように街並み全体が統制された美しい文脈においては、確かに視界を遮るノイズとなり得ます。この引き裂かれた二面性こそが、南氏が10枚の連作スケッチを通して来場者に投げかけたクリティカルな問いの正体でした。

過去の「テーマ提案展示」のまとめ動画

瓦斯メーターをカワイクしよう

室外機をカワイクしよう

Make Gutte Cute 樋をカワイクしよう

「R7 2025.10トルコ・ギリシャ南ツアー」スケッチ

会場に入って目の前に広がっていたのが、南氏が長年愛用しているモレスキン製のアコーディオン式スケッチブックの展示です。南氏はこれまでに世界各地を巡り、建築視察のたびに現地の街並みや架構、ディテールをスケッチとして記録し続けてきました。表紙を開くと、そこには実際の航空チケットの半券がコラージュされており、旅と観察のリアルなドキュメントとして存在感を放っていました。今回展示されたのは、2025年10月に実施された「トルコ・ギリシャ南ツアー」のスケッチブックです。

スケッチブックの原画展示とともに、南氏のアイデアが詰まった手作りの作品集や塗り絵も販売されていました。

南氏愛用のモレスキン製アコーディオン式スケッチブック

スケッチブックと並び、南氏の柔らかな陰影表現に欠かせない画材が「カリスマカラー(KARISMACOLOR)」色鉛筆です。

会場ではこの色鉛筆で描かれた原画やポストカードも販売されていました。カリスマカラーは惜しくも2024年12月末で生産終了となりましたが、南氏は今も短くなった鉛筆を大切に手元に残し、慈しむように使い続けています。使い込まれた画材の佇まいそのものにも、長年のものづくりへの誠実な姿勢が滲み出ていました。

参考:カリスマカラー(KARISMACOLOR)生産終了のお知らせ

「カリスマカラー(KARISMACOLOR)」色鉛筆と、スケッチ

なんでも手作りしてしまうアイデア作品

会場には、南氏自作の豆本や塗り絵、人気のミニイーゼルやアルパカの立体作品がカラフルに並びました。

立体作品「お絵かきアルパカ」

「オリジナル豆本」と「ミニイーゼル付き手描きキャンバス画」

また、妹のBUNKO氏の作品も同会場で共同展示されていました。

妹・BUNKO氏の展示

人が集まる場としてのギャラリー

通算26回を数える本展の根底には、南氏が一貫して抱き続けてきた「いかにして人が集まる場をつくり出せるか」という実践的な提案があります。

南氏は、工務店や設計事務所に「ギャラリー営業」を勧めています。「模型を並べたっていいし、地元の銀行の会議室を借りて小さな展覧会を開いた静岡の仲間もいる。ギャラリーって、小学校の同級生から親戚、近所の人、そしてOB施主までが自然とフラッと立ち寄れる、ものすごく懐の深い場所なんですよね」と語ります。

かつて建築家・高橋博氏のアトリエとして生まれ、鈴木喜一氏がギャラリーとして開いたこの空間で、南氏は「ギャラリーという場が持つ可能性」を自ら実証し続けています。

【南氏が監修・執筆した『建築技術』バックナンバー】

『季刊建築技術』2025.03 春号(No.900)特集「高断熱・高気密住宅の三つの水対策 漏水・結露・浸水」(監修:南雄三)
https://www.k-gijutsu.co.jp/products/8391350616109

『月刊建築技術』2024年1月号 特集「住まい手が選ぶ,おもしろい温熱環境」
https://www.k-gijutsu.co.jp/products/8391350222893

『月刊建築技術』2023年1月号 特集「新環境住宅計画原論」
https://www.k-gijutsu.co.jp/products/8391349829677

ほか

【南氏の著書】

『南雄三 スケッチcafe(vol.1)』(2009年)
https://www.k-gijutsu.co.jp/products/15087678160941

『南 雄三流 SuiSuiわかる「結露」の本』(2004年)
https://www.k-gijutsu.co.jp/products/8391796719661

『大逆転のHOME嵐』(2018年)
https://www.k-gijutsu.co.jp/products/8391347011629