
構造計算が行き詰ったら|性能を満足できないときのチェックポイント
最終更新日:2026/04/15

Fortec Architects株式会社
沖原 圭佑
大手建設会社に11年間、構造設計者として従事。工場・研究所・教育関連オフィス・ホテルなど、様々な建物種別に携わった。その後、ライティング技術を身に付けて建築ライターとして独立。建築・不動産・建設DXなど、幅広い建設・建築コンテンツの執筆を手掛けながら、ベンチャー企業の施工管理アプリ開発のアドバイザリー業務なども行っている。現在はFortec Architectsの構造エンジニア兼建築ライターとして活動中。
近年は、構造性能を事前に建築主等と合意した上でその性能を満たすように設計を行う「性能設計」が主流です。例えば「稀に発生する地震による力に対して損傷を生じない」「極めて稀に発生する地震による力に対して建物が倒壊・崩壊しない」といったクライテリアを定めて構造設計を進めていきます。具体的には応力や層間変形角が目標値以下であることを確認していくわけですが、ときには性能を満たすのが難しいこともあります。なかなか解決策が見えず、辛い思いをした方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、構造計算が行き詰ったときに意識すべきことについて解説します。構造設計の経験を積んでいくうちに自然と意識できるようになることばかりですが、実務経験が浅いうちは意図的に意識してみると楽になるかもしれません。
まずは状況と課題の整理
まずは今の状況と課題を正しく把握しましょう。意匠・設備・施工計画、法基準、コストといった制約などを整理し、優先順位を明確にすることが大切です。
「小梁応力の検定がNG」というシンプルな事象を例にしても、以下のようにさまざまな原因が考えられます。
・小梁を大きくすると天井高を確保できない
・小梁を大きくすると設備配管が納まらない
・スパン割や小梁の架け方が意匠・設備計画との兼ね合いで合理的でない
・コストを抑えるために小梁の経済設計が求められている
・小梁の検討方法が間違っている
小梁を大きくすれば解決できる場合もあれば、天井高や配管ルートを調整する、構造的な理解を深めるなどの時間と労力が必要なケースもあります。まずはこれらの状況・課題を整理し、今後の方針を冷静に考えましょう。
法基準や設計指針の内容を理解する
構造計算などの純粋な構造的課題で悩んでいるときは、準拠している法基準や設計指針の内容をしっかり理解することが大切です。基礎の設計を例にすると、準拠する基準・指針として「建築物の構造関係技術基準解説書(通称:黄色本)」「建築基礎構造設計指針」「建築基準法第12条第5項に基づく建築工事施工計画等の報告と建築材料試験の実務手引(東京都の場合、通称:赤本)」などが挙げられますが、それぞれの設計思想を正しく理解しましょう。
計算式や数値の扱い方が基準や指針によって異なることもあります。複数の基準・指針の考え方をミックスして有利な結果を生み出すのは構造設計の考え方として正しくありませんが、いくつかの設計手法から選択することはできます。複数の指針を参考にすることで理解が深まりますので、行き詰ったときは基準や指針を読み返してみましょう。
計算仮定やモデルのつくり方を見直す
次に計算仮定やモデルのつくり方を見直します。例えば梁の検討を行う場合、スパンの取り方は「部材心」「部材面」「ある程度の剛域を考慮する」の3つが考えられます。少ない手間で安全側の検討を行うなら部材心でスパンを取るのがよいですが、少しでも経済的に設計したいのであれば剛域を考慮してスパンを小さくこともできます。その際は必ず指針などを参考にし、適切な剛域範囲とその理由をしっかり理解することが大切です。
梁のスパンはわかりやすい例ですが、建物全体の検討は一貫構造計算ソフトで行う場合がほとんどであり、大きな構造モデルの内容を理解した上で見直すのは容易ではありません。実務経験が浅いうちは一貫構造計算ソフトが行っている計算の中身がブラックボックスになりがちですが、検討に行き詰まったときはこれらの内容をしっかり理解するチャンスです。マニュアルを参考にしながら準拠している基準や計算式、入力値と計算値の関係性を見直し、正しくソフトを扱えるようになりましょう。
先輩・上司に報・連・相
上記のように自分の力で課題を乗り越えて行くのは非常に大切なことですが、悩んだとき、行き詰ったときは、先輩・上司への報告・連絡・相談を忘れないようにしましょう。構造設計の実務は時間が限られているため、自力での解決に時間を掛けすぎるのも好ましくありません。
自分で道筋を考えながらも、早めに先輩・上司のアドバイスをもらい、できるだけ効率的に解決していきましょう。特に基準や指針、一貫構造計算ソフトの理解については、先輩・上司が心強い味方になります。まずは自分で指針やマニュアルを読み、ある程度理解したら先輩方の話を聞いて理解を深めるようにしましょう。実践的な使い方や困ったときの考え方・拠り所を聞くことで対応の幅が広がります。
意匠・構造・設備・施工の課題を総合的に検討
指針の理解や構造モデルの見直しなどで構造側の対応を検討することはできますが、それでも性能を満たすことが難しいケースもあります。例えば、20m四方の無柱空間をつくるのに天井懐が700mmしかないとしたら、梁せいが不足してしまいますよね。これは極端な例ですが、こういった場合は天井高や階高を見直し、十分な梁せいを確保する方が構造としては合理的です。このように、構造だけでは解決できない場合や、構造計画ではなく意匠・設備・施工の計画を変更した方が合理的なケースもあります。
設計を進めるうちに課題が発生した場合は、構造で解決できるように努めながらも、広い視野を持って構造以外の解決方法を同時並行で考えることが大切です。
おわりに
構造設計の業務に携わっていると、構造計算が行き詰って頭を抱えてしまうことが少なくありません。筆者も確認申請の直前に検討の見直しで性能を満たせなくなり、困り果てた経験があります。その度に先輩に助けてもらい、頼もしく感じるとともに自分自身も成長できました。皆さまも、行き詰ったときほど基本に立ち返り、周囲のサポートを得ながら進んでいってください。

