構造設計の楽しみ方|構造設計者の役割は安全を確保するだけではない!

構造設計の楽しみ方|構造設計者の役割は安全を確保するだけではない!

#構造設計のイロハ

最終更新日:2026/03/05

沖原 圭佑

Fortec Architects 株式会社

沖原 圭佑

大手建設会社に11年間、構造設計者として従事。工場・研究所・教育関連オフィス・ホテルなど、様々な建物種別に携わった。その後、ライティング技術を身に付けて建築ライターとして独立。建築・不動産・建設DXなど、幅広い建設・建築コンテンツの執筆を手掛けながら、ベンチャー企業の施工管理アプリ開発のアドバイザリー業務なども行っている。現在はFortec Architectsの構造エンジニア兼建築ライターとして活動中。

「構造設計は人の命を守る仕事だ」

私が大学で師事した教授が言っていた言葉で、今でも非常に印象に残っています。しかし、安全だけを意識していると自由な発想が妨げられてしまうケースが少なくありませんし、構造設計の初級者にとっては荷が重いと感じてしまうかもしれません。

もちろん命を守ることは構造設計者が最も大切にすべき使命ではありますが、いくつかの意識を変えることで構造設計をより楽しめるようになります。今回は、構造設計を専門としている筆者が大切にしている構造設計の楽しみ方をご紹介します。

構造設計者の役割

構造設計の最も大切な役割は、冒頭のとおり「安全な建物をつくり、人の命を守ること」です。大地震が来ても建物が無ければ多くの人命が奪われることはないはずで、プロとして建築する以上、安全な建物をつくる責任が伴います。構造設計者は建物の倒壊・崩壊を防ぐうえで最も重要なポジションであり、どのようなシーンにおいても建物の安全性を担保したうえで計画を進める必要があります。

もう一つの大きな役割は、「価値の高い空間を実現すること」です。建築主・意匠設計者の理想とする空間、利用者が有効に活用できる空間、歴史的建築物の保存など、建築にはさまざまな価値がありますが、これらを実現するためには構造設計者の活躍が欠かせません。「代々木体育館」や「せんだいメディアテーク」などの事例をみると、価値の高い空間を実現するには構造設計者の力が重要なことがよくわかります。

構造設計者は「設計者」の一員なので、建築主・意匠設計者・設備設計者・施工者などと連携しながら「理想的な建物・空間をつくりあげること」を目標にすることが大切です。この意識を持っていると、構造の観点では難しい条件を提示された際、「その空間を実現するためにはこのような代替案がある」といったアイディアを出せるようになり、ものづくりのチームの一員として構造設計を楽しめるようになるでしょう。

ここからは、チームの仲間と構造設計を楽しむためのポイントを具体的にご紹介します。

構造設計の楽しみ方①:建築主・意匠設計者の意図を理解する!

まずは建物が目指す姿をイメージすることが大切です。そのためには、このイメージを思い描く建築主や意匠設計者の意図を理解する必要があります。建築主の思いや意匠設計者の考え方を聞かなくても、建築図をもとにモデルを立ち上げて構造計算を進められるケースも少なくありません。しかし、建築主の熱意を受けてモチベーションがアップすることもありますし、要件の優先順位を把握することで代替案を出しやすくなります。

筆者の知る限り、優秀な構造設計者ほどプロジェクトの全体概要をよく理解しています。そこまで踏み込む理由は「建築が好き」というのが大きいかもしれませんが、結果として同じ目標に向かうチームの一員として構造設計の舵取りをできるようになり、建築主・意匠設計者・設備設計者・施工者の大きな助けとなっているのです。

構造設計の楽しみ方②:構造分野に限らず積極的に提案する!

構造的な合理性は、建築・設備・施工の合理性にも繋がるケースが少なくありません。合理的な構造は、コスト削減や施工性向上に繋がり、施工(ものづくり)を前提としている建築プロジェクトにおいて大きなメリットになるからです。

そのため、「外壁をこうしたら下地が減るのにな」「設備配管のルートを変えたら小梁が減るのにな」といったアイディアが浮かんだ場合は、構造以外の分野まで変更が及ぶとしても積極的に提案してみましょう。

建築で大切なのはそれぞれの分野ではなく、全体の最適解を模索することです。それぞれの専門家が分野横断的にアイディアを出し合うことができれば、「建物のあるべき姿」が見えやすくなります。また、積極的に提案することで相談しやすい関係性が生まれ、チームの雰囲気がよくなります。構造設計者として一線を引くよりも、フランクに相談できる構造設計者を目指しましょう。

構造設計の楽しみ方③:さまざまな制約を楽しむ!

建築にはさまざまな制約があります。構造設計も例外ではなく、コスト、材料調達、意匠・設備の納まり、施工性など、多くの制約のなかで設計作業を進めていきます。ここで大切なのは、制約に苦しむのではなく、制約を楽しむことです。

制約は、プロジェクトのストーリーの一部といえます。「狭小地」という制約があれば、ミニマムな建築に対して狭小地でも扱える小さい部材でつくる軽快な構造物が解になり、そういった構造システムがストーリーの一部になります。また、鉄骨が高騰している時期であれば、通常は鉄骨でつくっているものを鉄筋コンクリート造でつくることもあります。その場合は、コンクリートの熱容量を生かした環境配慮の視点がストーリーの核になるかもしれません。

その他にも、施工条件により工法が限定されたりスケジュールがネックになったりと難しい制約は数多くあります、ケースバイケースの最適解を模索するのが建築の楽しみのひとつといえるでしょう。それを繰り返しているうちに引出しが増え、対応できるプロジェクトが増えていきます。

構造設計の楽しみ方④:施工者とつくり方を考える!

建築はものづくりなので、つくり方を考えることも醍醐味のひとつです。建設会社やファブリケーター、メーカー、専門工事業者の方々は、施工の仕方を熟知しています。はじめのうちは教えてもらうばかりになるかもしれませんが、積極的にアイディアを出しながら一緒につくり方を考えてみましょう。

つくりやすさを考えることでより合理的な構造の着想を得ることもできますし、なにより「ものづくり」を楽しむことができます。筆者はタワーマンションの現場で施工管理を行っていた経験がありますが、鉄筋工や大工、鳶工、鍛冶工といった躯体職を中心とした職長・職人と一緒に施工方法を考えた経験が構造設計をするうえで大きな支えになっています。構造設計者として職人とコミュニケーションを取るときも、施工性を踏まえて気兼ねなくアイディアを出し合うことで、ものづくりの醍醐味を味わえるのです。

構造設計の楽しみ方⑤:物理感覚を磨く!

最後に挙げるポイントは「物理感覚を磨く」ことです。構造設計者としては当たり前のことのように思えるかもしれませんが、構造ソフトで手軽に計算・解析ができてしまう現代において物理感覚を磨き続けるのは意外と難しいものです。

ベテラン構造設計者は手計算で物理感覚を磨いてきているので、力の大きさと部材を見ると大体の応力や変形をイメージできます。この感覚が備わっていないと、応力だけ確認して大変形を見逃してしまう、結果を見ても計算ミスに気付かないといったことが起こります。

筆者の上司の言葉を借りると、「構造力学はいつ学んでも遅くありません」。ときには手計算の構造力学で架構形式、外力、部材サイズ、応力・変形の関係性を肌で感じ、物理感覚を磨きましょう。

おわりに

構造設計は、人の命を守るという重大な使命を背負っていますが、人が喜ぶ空間を実現することを意識することで楽しめるようになります。人によって構造設計に取り組むスタンスは異なりますが、今回ご紹介したポイントを参考にしながら構造設計を楽しんでください。