まず知っておきたい建設業の業務フロー|ITの視点から全体像を掴む

まず知っておきたい建設業の業務フロー|ITの視点から全体像を掴む

#情シス・DX推進担当のイロハ

最終更新日:2026/03/23

中島貴春

株式会社フォトラクション

中島貴春

ゼネコン勤務を経て建設テックスタートアップに参画。建設業向けSaaSの開発・導入支援に従事する中で、情シス・DX推進の現場を数多く見てきた。テクノロジーと建設業の架け橋として、業界全体のデジタル変革に取り組んでいる。

情シス・DX推進部門に配属されたら、まず理解すべきは建設業の業務フロー全体像です。受注→設計→施工→引渡→維持管理の流れを、ITの視点から俯瞰してみましょう。各フェーズで使われるシステムやデータを把握することが、情シスとしての武器になります。「現場を知る情シス」は頼りにされる存在になれるのです。

1.建設プロジェクトの全体像

建設業の業務は、大きく「受注→設計→施工→引渡→維持管理」の流れで進みます。情シス・DX推進担当としてまず把握しておきたいのは、この一連のプロセス全体と、各フェーズでどんなシステムやデータが使われているかです。

ただし、この流れは教科書的な整理であって、実際には各フェーズが重なり合ったり、手戻りが発生したりすることが日常茶飯事です。設計変更が施工中に入ることもありますし、維持管理の要件が設計段階で考慮されることもあります。こうした「現実のプロジェクトの動き方」を理解しておくと、システム導入時に「このタイミングで誰がどんなデータを必要としているか」をより正確に把握できるようになります。

受注フェーズでは、営業活動から見積作成、入札・契約までが行われます。ここでは積算システム、顧客管理(CRM)、電子入札システムなどが使われます。積算データは企業の競争力に直結する機密情報ですから、セキュリティの観点からも情シスが関与すべき領域です。

受注フェーズで特に意識したいのは、営業部門との連携です。多くの建設会社では、案件情報がExcelや個人のメールに分散しており、組織として営業活動を可視化できていないケースが見られます。CRMの導入や案件管理の仕組みづくりは、情シスが比較的早い段階で貢献できるポイントです。

設計フェーズでは、意匠設計・構造設計・設備設計が進められます。近年はBIM(Building Information Modeling)の普及により、3Dモデルベースでの設計が増えています。BIMデータは非常に大容量なため、ファイルサーバーやクラウドストレージの設計が重要になります。

BIM環境の整備は、情シスにとって大きなチャレンジであると同時にチャンスでもあります。高スペックなワークステーションの調達、大容量データのバックアップ体制、リモートワーク環境でのBIMデータアクセスなど、設計部門から頼られる場面は多いです。「BIMのことなら情シスに聞けば分かる」というポジションを取れれば、社内での存在感は一気に高まります。

2.施工フェーズ以降のIT事情

施工フェーズは建設業の核心です。現場では施工管理アプリ、工程管理システム、品質管理・安全管理のためのシステムが使われます。写真管理も膨大な量になり、クラウドでの管理が主流になりつつあります。また、協力会社(下請け業者)との情報共有も重要で、複数の企業が一つのプラットフォーム上で協力する仕組みが求められます。

施工現場のIT環境は、オフィスとは全く異なることを認識しておきましょう。仮設事務所のネットワーク環境は貧弱なことが多く、Wi-Fiが不安定な場合もあります。現場事務所にルーターを設置する、モバイルルーターを配布する、オフラインでも使えるアプリを選定するなど、「現場で本当に使える」環境を整えることが求められます。

さらに、施工現場ではタブレットやスマートフォンの利用シーンが多様です。粉塵の多い環境、高所作業、夏場の高温・冬場の低温など、精密機器にとっては過酷な条件です。防塵・防水性能の高い端末の選定や、破損時の迅速な交換体制なども情シスが考慮すべきポイントです。

引渡フェーズでは、竣工書類の作成・整理、検査対応などが行われます。ここで作成される膨大な書類を電子化・効率化することは、情シスの大きな貢献ポイントです。

竣工書類は数千ページに及ぶこともあり、紙で管理していた時代は膨大な作業負荷がかかっていました。書類の電子化、テンプレートの標準化、承認ワークフローの構築など、情シスが仕組みを整えるだけで現場の負担を大幅に軽減できます。こうした「目に見える改善」は社内の信頼獲得にもつながります。

維持管理フェーズでは、引き渡し後の建物の保守・点検が行われます。設計・施工時のデータを維持管理に活用するという考え方が広がっており、データの一気通貫管理は今後のDXの重要テーマです。

維持管理領域は、建設業のDXにおいてまだまだ発展途上の分野です。建物のライフサイクル全体でデータを管理するという発想は、情シスの得意領域であるデータベース設計やシステム連携の知見が直接活きる場面です。長期的な視点で自社のデータ戦略を考える際には、ぜひ維持管理フェーズまで見据えた提案を行いましょう。

3.「現場を知る」ことが情シスの武器になる理由

IT部門にいると、どうしてもシステムやツールの機能面に目が行きがちです。しかし建設業の情シスとして本当に価値を発揮するには、「現場で何が起きているか」を理解することが不可欠です。

例えば、施工管理アプリを選定するとき。機能比較表を見るだけでは分からないことがたくさんあります。現場では手袋をしたままタブレットを操作することもある。雨天でも使う。電波が入りにくい場所もある。こうした現場のリアルを知っているかどうかで、選定の質が大きく変わります。

「あの情シスの人は現場のことを分かってくれている」——そう思ってもらえれば、現場からの相談も増え、本当に必要なDXを推進できるようになります。構造設計のイロハや設備設計のイロハでも繰り返し語られていますが、他部門との信頼関係が仕事の質を左右するのは、情シスも同じです。

現場を知るための第一歩は、実際に足を運ぶことです。現場見学の機会があれば積極的に参加しましょう。現場代理人や職長と話をする中で、「こういうところが不便なんだよね」「もっとこうなればいいのに」という生の声を聞くことができます。これこそが、次のDX施策のヒントになるのです。

4.現場の人と仲良くなることが、DX成功の最大の近道

業務フローを頭で理解することと、実際にDXを推進できることの間には、大きなギャップがあります。そのギャップを埋めるのが、現場の人たちとの信頼関係です。

どれだけ優れたシステムを導入しても、現場の人に使ってもらえなければ意味がありません。そして「使ってもらう」ためには、現場が抱える課題を正しく理解し、「この人が提案するなら試してみよう」と思ってもらえる関係性が必要です。

IT好きな味方を社内に増やす

DX推進を情シス部門だけで進めようとすると、必ず壁にぶつかります。おすすめしたいのは、各部署・各現場に「IT好きな人」「新しいツールに抵抗がない人」を見つけて、味方になってもらうことです。

こういう人たちは、たいてい自分でスマホアプリを活用していたり、Excelマクロを自作していたりします。飲み会や雑談の場で「最近こういうツール使ってるんですよ」という話題を振ると、意外と見つかるものです。

この「IT好きな仲間」が各所にいると、新しいツールの導入時に率先して使ってくれたり、周囲のメンバーに使い方を教えてくれたりと、推進力が段違いになります。情シスが一人で全現場をフォローするのは物理的に不可能ですから、こうした社内ネットワークは極めて重要です。

実証実験・試行導入で現場の協力が不可欠になる

新しいシステムやツールを全社展開する前には、特定の現場での実証実験やパイロット導入が必要になることがほとんどです。この時、協力してくれる現場があるかどうかで、DXプロジェクトの成否が決まると言っても過言ではありません。

実証実験では、予期しないトラブルや使い勝手の問題が必ず出てきます。「このアプリ、現場だと動きが遅いんだけど」「入力項目が多すぎて面倒」——こうしたフィードバックを率直にもらえる関係性がなければ、問題が隠れたまま全社展開してしまい、後から大きな手戻りになります。

日頃から現場に顔を出し、困りごとがあれば小さなことでも対応する。そうした積み重ねが「今度新しいシステムの試行をやりたいんですが、協力してもらえませんか?」と頼みやすい関係を作ります。

社内コミュニケーションもDX推進の一部

技術やシステムの知識を磨くことはもちろん大事ですが、社内のコミュニケーション力を高めることも、DX推進担当の重要なスキルです。

具体的には、現場の朝礼に参加してみる、定例会議に顔を出す、社内SNSやチャットで積極的に発信する、成功事例を社内で共有するなど、「情シスが何をやっているか」を見える化する工夫をしましょう。情シスの仕事は裏方になりがちですが、見える化することで理解者や協力者が増えていきます。

「ITのことはよく分からないけど、あの人なら相談しやすい」——そう思ってもらえるポジションが、実は最も強い推進力を持っています。

5.最後に

業務フローの全体像を掴んだら、次は各フェーズを深掘りしていくことをお勧めします。そしてそれと同時に、社内で信頼できる仲間を一人でも多く見つけてください。DXは技術だけでは実現しません。現場の人たちと一緒に課題を解決していく姿勢があってこそ、本当の変革が起こります。

次回は、実際に現場に足を運ぶことで得られる気づきについてお話しします。デスクの前だけでは見えない世界が、建設現場には広がっています。

※本記事の内容は筆者個人の見解であり、所属組織の公式な見解を示すものではありません。また、特定のサービスや商品のプロモーションを目的としたものでもありません。