「建築生産におけるサーキュラーエコノミー」 先進5社の実装を追う

「建築生産におけるサーキュラーエコノミー」 先進5社の実装を追う

#イベントレポート

最終更新日:2026/04/24

KENGI 編集部

株式会社建築技術

KENGI 編集部

「建築生産におけるサーキュラーエコノミー」 先進5社の実装を追う

資源循環や脱炭素への対応が建設分野でも本格化し、材料調達から解体・更新まで、従来の前提を見直す動きが広がっている一方で「サーキュラーエコノミー(循環経済)」は概念が先行しやすく、建築生産の現場でどこまで実装が進んでいるのかは掴みにくいところもあります。

そのようなニーズに応えるべく、2月18日、日本建築学会 建築社会システム委員会 建築生産小委員会によるセミナー「建築生産におけるサーキュラーエコノミー」が開催されました。導入講演では早稲田大学の石田航星准教授が概念整理と建築分野の位置づけを解説。続く企業講演では、業界のトップランナー5社が、木材・解体材・金属・廃プラ・データ基盤といった切り口から取り組みを共有しました。

本記事では、セミナーで語られた業界のトップランナー5社の取り組みについて、当日の講演内容をもとにレポートします。

主旨説明:サーキュラーエコノミーの整理:建築は「資源のストック」でもある

石田航星氏(早稲田大学理工学術院 創造理工学部 准教授 )

石田准教授は、サーキュラーエコノミーが比較的新しい概念として注目されていることを踏まえ、まず背景となる国際的な環境政策や投資潮流の整理から解説しました。気候変動対策をめぐる国際枠組み(IPCC、COP、京都議定書、パリ協定)やMDGsからSDGsへの展開、さらにESG投資・インパクト投資といった投資潮流の変化を俯瞰し、循環型経済の議論がこうした動きと並行して強まってきた経緯を話されました。

続いてエレン・マッカーサー財団の「バタフライ・ダイアグラム」を用い、生物由来と工業由来の循環を対比しながら、工業側では「シェア」「メンテナンス」「リユース」「リファービッシュ」などの技術的サイクルを通じて資源消費を抑えた社会へ転換していく方向性を説明しました。特に「所有から利用へ」という転換に触れ、日本ではシェアリングが普及してきた面があるものの、サブスクリプション型の利用は長寿命化を通じて循環に資する可能性があると述べています。

建築分野の課題については、国内の膨大なストックにおいて建築セクターが占める割合の大きさを指摘。部材のリユースのみならず、シェアリングなどを通じて建物の稼働率を高め、長寿命化を図ることもサーキュラーエコノミーにおける重要な活動であると述べました。

また、このような資源循環は単なる環境対策に留まらず、調達制約や円安を背景とした「経済安全保障」の観点からも、国内資源の有効活用は極めて大きな意味を持ち得ると説き、解説を締めくくりました。

社有林材活用から見える木材循環の課題と展望

(和田淳氏 鹿島建設 建築設計本部 技師長 兼 建築設計統括 木推進グループ グループリーダー)

続いて登壇した和田氏は、鹿島グループが全国49か所で約5,500haの山林を保有していることを紹介し、社有林材の活用を通じて見えてきた実感と課題を共有しました。

横浜の研修施設の事例では、宮崎の社有林の杉材をCLT化し、耐震壁利用のほか、PC床板の上に壁、天井の5面をCLTで組立て、内装・建具をユニット化して吊り込む施工方式により、効率と安全性の向上につながったと説明しました。北海道・尺別の広葉樹を家具に展開した例、福島の社有林材を長野で製材して軽井沢の保養施設に用いた例なども挙げ、社有林材を建築全体へ広げる取り組みを紹介しました。

一方で、川上から関与したからこそ見えた制約も語られました。森林の“量感”と製品の“歩留まり”のギャップ、樹種による利用可能性の差、無節材要求の難しさ、原木輸送の空隙や製材歩留まりの低さといった論点です。さらに、必要な森林面積の試算を示し、木材利用サイクルだけが回っても森林側が持続しない恐れがあるということにも言及。サーキュラーエコノミーを考えるうえで、「木材利用サイクル」と「山林サイクル」を結びつける視点の重要性を強調しました。また、山林の各区画の特性と社会ニーズの両面からゾーニングを行う取り組みも紹介され、森林状況と社会的要請を踏まえて計画を更新していく考え方を提示しました。質疑では、再造林の前提やFSC(Forest Stewardship Council/森林管理協議会)認証の実務上のハードル、ゾーニングの考え方が話題となり、数量確保の限界や認証取得の課題が共有されました。

新築建物への建設解体材活用の取り組み

(小林利道氏 大林組 設計本部建築設計部 部長)

小林氏は、大林組技術研究所で建設中の研究施設「オープンラボ3」(S造、地上3階、延床面積約2,200㎡)を題材に、解体材のリユース・リサイクルをプロセス全体で実践する取り組みを紹介しました。CO₂排出量の低減を目標に、ネットZEBの達成、構造部材・仕上げ材・設備機材のリユース、解体由来のリサイクルアルミサッシ、低炭素コンクリートなどを組み合わせる構成です。

Ⅰ期工事では既存建物を解体し、構造材リユースを中心に新築構造へ転用しました。リユース率:鉄骨約57%、コンクリート約33%(※リユース材を用いるⅠ期(鉄工作業所)における割合)で活用し、新材比でCO₂排出量を約半分に低減できたと説明しました。進め方の特徴として、解体前に図書・記録を収集し損傷や性能を確認したうえで、設計図書に「解体編」として解体図を整備し、切り出し位置と転用先を設計段階で明示した点を挙げました。確認検査機関等と協議し、通常の確認申請手順に沿って進めたとしています。

Ⅱ期工事では、万博パビリオンから仕上げ・設備機材を転用する計画を紹介。BIMと照合して機材位置を特定し、取り外し順序や梱包を搬入工程から逆算して決めたこと、輸送の工夫も含めて実装上の論点を共有しました。

質疑では、普及条件としてマッチングや管理・保証を含む仕組み整備が必要だとの認識が議論されました。鉄骨はJIS規格材で扱いやすい一方、設備はメーカー保証や付属品供給が課題になりやすい点、RCは手間が大きく難しいとの見方も語られました。

スクラップ アンド ビルドからサーキュラーデザインビルドへ ~取り組み紹介と今後の課題~

(高崎英人 竹中工務店 生産本部 安全環境本部 シニアチーフエキスパート)

高崎氏は、建設業はリサイクル率90%以上を達成してきた一方、最終処分が残る現状を課題として提示しました。同社の「環境戦略2050」では、サーキュラーデザインビルドを段階的に展開し、2050年までに全プロジェクトで実装する目標を掲げています。最終処分量は2030年までに10%削減し、2050年にゼロを目指すと説明しました。

サーキュラーデザインビルドとは、設計(デザイン)と施工(ビルド)の両面で循環を実践する考え方で、「作る循環」「使う循環」「つなぐ循環」の3層で整理されます。事例としては「使う循環」から、解体アルミ建材の水平リサイクルと、廃プラスチックの資源化が紹介されました。アルミについては、解体時点で6063材を分別回収しメーカーへ戻すルート構築を試みる一方、解体手法やトレーサビリティが課題になると整理。廃プラについては、樹脂混在や表示不足が障壁となり、燃料利用に回る実態がある中で、分別表示の整備や油化(ケミカルリサイクル)の実証などが論点となりました。質疑では、価格成立性と制度支援、発注者理解が話題となり、普及の初期段階ではインセンティブ設計が鍵になるとの認識が共有されました。

建築現場におけるサーキュラーエコノミーへの取り組み~現場で発生した廃プラスチックの再資源化~

(塚原裕一氏 清水建設 建築総本部 生産技術本部機械計画部機械エンジニアリンググループ主査)

塚原氏は、建設業が廃プラ多量排出業種である一方、処理は焼却(サーマル)に偏り、マテリアルリサイクルが進みにくい現状を整理しました。進まない理由として、収集運搬の非効率、事業者情報の不足、コストアップ、分別精度不足などが挙げられると説明しました。

同社は大規模現場のデータ分析により、廃プラが体積ベースで主要品目(約4割)であること、材質は塩ビ系が約半分を占める構成などを把握。あわせて再資源化事業者の受け入れ条件を調査し、条件のばらつきや塩ビ受け入れの限定性、異物混入の制約を“見える化”しました。

具体策として提示されたのが、中間処理前提から再資源化事業者への有価売却を目指すスキームです。現場には分別を担う専門作業員(グリーンマスター)を配置し、センサー等も活用して分別精度を高める試行を進めています。日本橋の現場ではワイヤーリール、PPバンド、エアキャップなどを対象に分別・売却を実施し、再生材の展開としてOAフロア部材や雨水貯留槽(本設材)への適用例も紹介されました。

質疑では、国内循環(海外流出)への懸念や、専用処理施設の構想が議論されました。制度枠組みの可能性に触れつつ、最終的には需要側が求める材料品質・価値を満たせるかが鍵となるという整理がされました。

建設物資源循環データプラットフォーム

(横溝成人氏 大成建設 サステナビリティ総本部クリーンエネルギー・環境事業推進本部自然共生技術部 部長)

横溝氏は、資源循環をデータとして扱い設計段階から考慮する視点から、海外プラットフォームの試行導入と設計への適用の考え方を紹介しました。オランダの資源循環プラットフォーム「Madaster」では、BIMデータをIFC形式に変換し建物をレイヤー別に分解して資材情報を管理します。そこから生成されるマテリアルパスポートにより、材料重量、循環性、分解性、エンボディドカーボン、正味現在価値などが可視化されます。

設計面では、建物が多様な材料で構成され寿命も異なることを踏まえ、資源ごとに循環を評価するCEB Architectureの考え方を提示しました。基本設計段階では簡易評価により循環性を意識し、詳細段階ではBIMやMadasterにより評価を深める段階的な位置づけです。CASBEEが建築の総合評価、CEBが循環特化、Madasterが資材情報基盤という関係も整理されました。

後半では石垣島のリゾート施設を題材とした「+ZEER/プラスジール(Zero Energy Environmental Resort)」の取り組みを紹介。再生可能エネルギー活用や海洋プラスチックのアップサイクル、自治体・教育機関連携などを通じ、環境価値と地域価値を同時に高める構想です。質疑では資源価値評価やデータ共有の課題が議論され、メーカー側データ開示のインセンティブ設計が普及の鍵となるとの認識が述べられました。

まとめ:循環の鍵は「回る仕組み」と「決め方」

(斎藤寛彰氏 日本建築学会 建築生産小委員会 主査(戸田建設))

最後に司会の斎藤氏は、本セミナーを通じて建築生産におけるサーキュラーエコノミーの重要性と実装課題が多角的に共有されたと総括しました。導入では石田准教授が循環経済の位置付けを整理し、続く各社講演では資源循環を実務へ組み込む取り組みが紹介されました。鹿島建設は社有林材活用を通じた木材循環と森林側サイクルの課題を提示し、大林組は解体材リユースの実装事例を紹介しました。竹中工務店はサーキュラーデザインビルドの枠組みと産業連携の方向性を示し、清水建設は現場廃プラスチックの再資源化スキームを提示しました。大成建設は資源循環を設計へ組み込むプラットフォーム的アプローチを紹介しました。

これらを通じ、資源循環は材料・施工・設計・制度・データにまたがる統合課題であり、建築生産全体での取り組みが求められることが共有されたとして、セミナーは締めくくられました。