【3.11東日本大震災から15年】 「災害レジリエンス」最新拠点を公開  “体験と可視化”を通じ、専門家と目線をあわせて大規模地震災害に備える

【3.11東日本大震災から15年】 「災害レジリエンス」最新拠点を公開  “体験と可視化”を通じ、専門家と目線をあわせて大規模地震災害に備える

#イベントレポート

最終更新日:2026/05/11

KENGI編集部

株式会社建築技術

KENGI編集部

東日本大震災から東日本大震災の発生から15年となる2026年3月11日を前に、株式会社日建設計は3月4日、東京・飯田橋の共創拠点「PYNT」において、「地震体験ポート」を報道陣に向けて公開しました。

地震体験ポートは、単に揺れを体感する展示ではなく、地震時の揺れを体感し、その後の建物の状態を把握し、避難や継続使用、復旧に関する判断までを一連の流れとして捉えることで、建物の性能を関係者が共有し、現実的な対応を議論するための取り組みとして構成されていました。

公開当日には、東京科学大学の竹内徹名誉教授を招いた講演・パネルディスカッションが行われ、従来の耐震設計の考え方を踏まえつつ、「倒壊しない」という性能にとどまらず、被災後の継続使用や復旧までを含めて建築を捉える必要性が議論されました。

従来の「倒壊しない建物」を目指す考え方に加え、「倒壊しないというだけで良いのか、地震後にどのように機能するか」という視点から建築を捉え直す試みとして、体験・計測・判断支援を組み合わせた新たなアプローチが提示されています。

共創拠点「PYNT」(Photo:永禮賢)

共創拠点「PYNT」が担う役割

今回のイベントが行われたPYNTは、組織や立場を超えた出会いを通じてコラボレーションを加速さ せ「共創」をつくること、そして社員の「やりたい」を支援し、コミュニケーションを活性化することを目的とした場所です。まちの暮らしに関する様々な課題意識をもつ個人と建築や都市の専門家を繋ぎ、「まち の未来に新しい選択肢をつくる共創のプラットフォーム」として、社内だけでなく、企業や大学、行政、 NPO といった社外の共創パートナーも巻き込み、複雑な社 会課題の解決を目指しています。

今回の公開の会場である「PYNT」(Photo:永禮賢)

地震後まで含めて設計するという発想杉浦盛基(日建設計 エンジニアリング部門 構造設計グループ代表)

はじめに杉浦氏は、日建設計が進める「レジリエンスサポートサービス」を軸に、構造設計の役割を拡張する新たな取り組みについて説明しました。

同社では、従来の受託型業務に加え、社会課題そのものに直接アプローチする事業展開を志向しており、その一環として災害レジリエンスをテーマとした構造コンサルティング領域が位置付けられています。構造分野においても、BCP支援や構造ヘルスモニタリング、仮想地震体験、既存ストックの耐震価値向上などの取り組みが進められており、これらを統合する形でレジリエンスサポートサービスが展開されています。

ここでいうレジリエンスとは、耐久性だけでなく、被災後の復旧力・回復力までを含む概念です。杉浦氏は、南海トラフ地震や首都直下地震の発生が想定される中で、建物の耐震性能向上だけでなく、「被災後にどう機能を回復させるか」を設計に組み込む必要があると指摘しました。

この考え方を説明する際、同氏は「三匹の子豚」の寓話を例に出しました。従来の耐震設計は、中地震では健全性を保ち、大地震では被害を許容しつつ倒壊を防ぐという考え方を基本としており、これはいわば“藁の家”に相当します。その後、耐震性や免震性を高めた“木の家”“レンガの家”へと発展し、より高い安全性が追求されてきました。

しかし重要なのは、「どの家が優れているか」ではなく、「どの家を選択するか」という点です。建設コストに加え、被災後の復旧費用や復旧に要する時間、さらには事業停止による損失までを含めて考えると、それぞれの“家”は異なる意味を持ちます。すなわちこの寓話は、耐震性能の優劣ではなく、リスクとコストを踏まえた意思決定の構造を示すものといえます。さらに、想定を超える地震が発生し得る現代においては、“レンガの家”であっても被害を免れない可能性があります。そのため、建物の倒壊を防ぐだけでなく、被災時に避難が必要かどうか、どの程度で復旧可能かといった「発災後の対応」まで含めて設計する必要があると述べました。

これらの意思決定は、建設費だけでなく、被災後の復旧費用や復旧までの時間に伴う事業停止損失を含めたトータルコストで評価する必要があります。どの性能水準を選択するかは最終的に発注者の判断となりますが、その判断を支援することが設計者の役割であると杉浦氏は述べました。それを具体化したのが、レジリエンスサポートサービスです。設計段階における性能設計や地震動設定に加え、VRによる地震体験を通じた意思決定支援、発災時の迅速な初期判断を支援する「NSmos®」、構造部材の損傷を把握するモニタリング技術などを組み合わせ、計画から被災後までを一体的に支援する仕組みとなっています。

また、地震の影響は構造体にとどまらず、天井や内装、設備、さらには外部インフラにも及びます。こうした複合的な影響を踏まえ、建物単体ではなく社会全体の中で機能維持を考える必要があると指摘しました。杉浦氏は、これらの取り組みを単なる技術提供にとどめず、共創の枠組みとして発展させていく考えを示し、体験や情報発信を通じて多様な主体との連携を促していく姿勢を示しました。

「倒壊しない」だけでは足りない──継続使用を前提とした設計へ(竹内徹 東京科学大学名誉教授・前日本建築学会会長)

竹内名誉教授は、昨年「巨大地震等対応防災拠点施設設計仕様ガイドライン」のとりまとめを主導されており、今回の講演では、日本が地震・風水害・火山など多様な災害リスクを抱える国であることを踏まえ、近年の大規模災害を振り返りながら、建築に求められる性能のあり方について説明しました。

近年の地震災害では、建物の被害により居住継続が困難となり、住民が広域に分散避難せざるを得ない状況が生じています。こうした事例は、単に建物の倒壊回避だけでなく、「使い続けられるか」という観点の重要性を示しています。事前に一定の対策を講じていれば、復旧や避難にかかるコストを抑えられた可能性があると指摘しました。

一方で、現在の建築基準法に基づく新耐震基準は、「倒壊しないこと」を最低限の目標としたものであり、必ずしも継続使用を保証するものではありません。実際に、新耐震基準を満たした建物であっても、大地震後には壁の大破や内部損傷により使用不能となる事例が報告されています。

この状況を整理するため、講演では「性能マトリクス」が示されました。地震動の大きさと建物の損傷度合いの関係を整理したもので、現行基準は大地震時に「倒壊しない」レベルに位置付けられる一方で、機能維持や継続使用までは担保されていないことが明確に示されました。

そのため、今後は用途や重要度に応じて、より高い性能水準を選択していく必要があります。特に病院や防災拠点などでは、大地震後も機能を維持できる設計が求められます。その具体例として、能登半島地震で被災した七尾市の慶寿総合病院が紹介されました。耐震設計および耐震補強された建物では設備や什器の損傷により継続使用が困難となった一方、免震構造の建物では機能が維持され、患者の受け入れや出産対応が継続できたといいます。この事例は、構造形式の違いが「使い続けられるかどうか」を大きく左右することを示しています。

また、継続使用のためには、庁舎機能や通信・電力といったインフラの維持が不可欠であることも指摘されました。庁舎が使用不能となったり、通信が途絶したりすることで、災害対応そのものが機能しなくなるケースも報告されています。

こうした背景を踏まえ、防災拠点に求められる性能を整理したガイドラインが紹介されました。そこでは復旧までの時間、すなわち「ダウンタイム」を指標として段階的に性能水準を設定し、施主が選択できる仕組みが提案されています。

さらに講演では、被災直後の建物利用判断の難しさについても言及されました。外観だけでは安全性を判断することが困難であり、専門家不在の状況で短時間に使用可否を判断しなければならない場面が多く発生します。

その解決策として、建物ごとの弱点を事前に把握した「カルテ」の整備や、センサーによるヘルスモニタリングの活用が提案されました。どの部位が損傷すると危険なのかを明示し、地震後に即時に状態を把握できる仕組みを整えることで、非専門家でも一定の判断が可能になるとしています。「倒壊しないこと」だけでなく、「使い続けられること」、さらには「迅速に判断できること」までを含めた設計が求められるとまとめられました。

体験と計測をつなぐ──レジリエンス設計を支える可視化技術(福島孝志(日建設計 エンジニアリング部門 構造設計グループ ダイレクター)

続いて福島氏は、地震体験とモニタリング技術を組み合わせた「地震体験ポート」の取り組みについて紹介しました。南海トラフ地震や首都直下地震の切迫性が指摘される中で、設計や防災に関わる情報や技術は高度化している一方、それらが施主や利用者に十分に伝わらず、性能選択や意思決定につながりにくいという課題があります。こうした背景から、同氏は「適切な情報の伝え方」を再設計する必要性を指摘し、その具体的な取り組みとして本ポートを位置付けています。

本ポートでは、「SYNCVR®」「NSmos®」「ダイレクトモニタリング」という3つの技術を組み合わせ、地震時および地震後の状況を可視化し、性能水準の選択や避難・継続使用の判断を支援するプロセスの構築を目指しています。SYNCVR®は、設計時の構造データをもとに、室内の什器の挙動や構造形式による揺れの違いを視覚・聴覚的に体感できる仕組みです。さらに地震動体験装置と連動させることで、実際の揺れに近い感覚を再現し、耐震構造と免震構造等の性能差を直感的に理解できるようにしています。単なる防災啓発にとどまらず、建物に求める性能や選択肢を関係者が比較し、合意形成につなげることも意図されています。

この体験は、建物の構造性能について十分な説明と理解を得たうえで、施主や利用者が納得して選択できる環境を整えることを目的としています。性能の違いを数値だけでなく体験として共有することで、関係者が同じ前提に立って議論できるようにする狙いがあります。一方、NSmos®は地震発生後の迅速な意思決定を支援するシステムです。建物内に設置された加速度センサーにより揺れを計測し、あらかじめ設定された閾値に基づいて被害の程度を判定します。これにより、建物管理者は地震後数分以内に、避難や継続使用に関する初動判断に必要な情報を得ることが可能となります。さらに、ダイレクトモニタリングでは、柱や梁に設置したひずみゲージにより構造部材の状態を直接計測し、損傷の有無や修復の必要性を把握します。これにより、調査範囲の絞り込みや修復箇所の特定が迅速に行え、復旧までの時間短縮に寄与することが期待されます。

これらの技術を単体で用いるのではなく、体験(SYNCVR®)と計測(NSmos®・ダイレクトモニタリング)を往復させながら活用することで、設計段階から被災後まで一貫した理解と判断を支えることが可能となります。体験によって被害のイメージを共有し、その結果をレポートとして可視化することで、性能の違いや選択肢を具体的に検討していくプロセスが想定されています。

福島氏は、すべての建物を高性能化するのではなく、コストや用途に応じた複数の選択肢を提示することが重要であると述べました。例えば、初期コストを抑えつつモニタリング技術を組み合わせることで、被災後の迅速な判断や復旧を可能とするなど、レジリエンスを多面的に高めるアプローチが考えられます。講演は、「倒壊しないこと」に加え、「被災後にどのように回復するか」を含めて提案することの重要性を強調し、計画・応急・復旧をつなぐ一体的な設計プロセスの必要性を示しました。


パネルディスカッション 

レジリエンスを実装するための視点──発災直後から復旧まで

パネルディスカッションでは、災害発生直後の実態から復旧の課題、さらにレジリエンスを高める設計のあり方までが議論されました。

まず発災直後の状況について、竹内名誉教授は、災害後の最初の24時間は公的支援が機能しない可能性があり、自ら生き延びる準備が必要と指摘しました。水や食料の不足に加え、電気や通信の途絶といった状況の中で、最低限の安全を維持できる備えが不可欠であると述べます。また、避難そのものがリスクとなる場合がある点にも言及し、とくに高齢者や要介護者においては移動による環境変化が大きな負担となり、災害関連死につながるケースがあることが示されました。

こうした背景から、「避難するか、とどまるか」という判断の重要性が浮かび上がります。杉浦氏は都市部の状況に触れ、大地震発生時には建物内にいてよいのかどうか分からない状態こそが大きな問題であると指摘しました。情報が不足し、誰も判断を示せない中で、利用者や管理者が意思決定を迫られる状況が生じるためです。この不確実性を解消するには、あらかじめ建物の状態を把握し、地震後に迅速な判断ができる仕組みが必要であるとの認識が共有されました。

続いて、復旧の遅れを生む要因について議論が行われました。竹内名誉教授は、避難による生活基盤の分断と、損傷した建物への対応の難しさを挙げます。中途半端に損傷した建物は解体や再建に時間がかかり、結果として復旧まで長期化する傾向があります。また、避難によって人が分散することで、地域の回復そのものが遅れる状況も指摘されました。

一方で福島氏は、安全確認の遅れが大きなボトルネックになっていると述べます。多くの建物では地震後の安全性を即座に判断する手段がなく、応急危険度判定に依存しているため、判断に時間を要し、その間に意思決定が滞るという課題があります。被害の把握と判断の遅れが、復旧全体の遅延につながっていると整理されました。

さらに議論は、レジリエンスを高める設計のあり方へと展開しました。建物の躯体だけでなく、設備やインフラを含めた総合的な視点で検討する必要性が示され、設計者だけでなく多様な関係者が連携して取り組む重要性が強調されました。

また、単に耐震性能を高めるだけでなく、被災後の対応まで含めた提案が求められる点も指摘されました。福島氏は、状態把握や意思決定を支援する仕組みを組み合わせること自体が、これからの設計における重要な役割になると述べています。

加えて竹内名誉教授は、損傷箇所をあらかじめ想定する設計の有効性に言及しました。どこが壊れるかが分かっていれば点検や修復の対象を絞ることができ、復旧の迅速化につながります。逆に、損傷の位置や程度が把握できない建物は対応が遅れ、結果として復旧全体に影響を及ぼすことになります。

議論を通じて共有されたのは、レジリエンスとは単なる耐震性能の向上ではなく、発災直後の判断、被害の把握、復旧までのプロセスを一体として設計に組み込むことにあるという認識です。すなわち、これからの建築には「倒壊しないこと」に加え、「被災後にどう回復するか」までを見据えた設計が求められているといえます。

パネルディスカッションの様子 左から杉浦氏、竹内名誉教授、福島氏

「地震体験ポート」による迅速な判定支援の紹介

会場では、SYNCVR ®とNSmos ®による被災後の迅速な判定支援の考え方が紹介されました。

NSmos®は、建物内に設置された加速度センサーにより地震時の揺れを計測し、そのデータをもとに建物の損傷状況や耐震安全性を分析するシステムです。地震発生後、数分以内に被害程度や避難の要否、継続使用の可否といった判断に必要な情報が出力され、建物管理者が状況を迅速に把握できる仕組みとなっています。構造体だけでなく、外装材や天井、設備、家具といった非構造部材についても、あらかじめ設定した評価条件に基づき各階ごとに判定され、層間変形角や最大加速度などの指標とあわせて提示されます。

また、こうした判定には建物ごとの特性を踏まえた構造設計者の知見が反映されており、単なる数値評価にとどまらない実務的な判断支援が意図されています。実大震動実験施設(E-ディフェンス)での検証においても、判定結果と実際の被災状況に大きな乖離はなく、その有効性が確認されています。

筆者もSYNCVR ®で耐震構造と免震構造の違いを体験しました。頭では理解していたつもりでも、実際に揺れを感じると印象は大きく異なります。前後左右に揺れる体験は現実に近い恐怖を伴う一方、免震構造では揺れが大きく抑えられ、安心感を強く感じることができました。構造の違いが体感として理解できる点は非常に大きいと感じます。

また、このような体験と判定システムの組み合わせは、自治体や建物管理者にとっても有効です。庁舎などの公共施設において、「この性能でよいのか」「地震後に使い続けられるのか」といった判断を具体的に考える契機になるといえます。

当日紹介されたNSmos®
地震体験ポート 耐震での揺れを体験。ともに南関東地震の揺れを想定
地震体験ポート 免震での揺れを体験。ともに南関東地震の揺れを想定

「倒壊しない」から「回復できる」へ

今回の公開では、日建設計が取り組むレジリエンスの考え方が、設計から被災後の対応までを見据えたかたちで紹介されました。

従来の耐震設計は、まず倒壊防止と人命保護を重視した考え方に立つものであり、災害後の継続使用や迅速な復旧までは必ずしも担保されていません。実際には、どの性能水準を選択するかは発注者の判断に委ねられていますが、その判断に必要な情報が十分に共有されているとはいえない状況もあります。

「地震体験ポート」の取り組みでは、地震時の状況を体験し、その結果を可視化して判断につなげていくプロセスが提示され、建物の性能を理解したうえで選択するという考え方が、より具体的なかたちで示されています。

「倒壊しない建物」を目指すだけでなく、「被災後にどう回復するか」までを含めて設計すること。そうした視点が、設計の前提として改めて問われています。