設備の実務に大事なのは「段取り力」(2)基本設計と実施設計の境目ってどこなの問題

設備の実務に大事なのは「段取り力」(2)基本設計と実施設計の境目ってどこなの問題

#設備設計のイロハ

最終更新日:2026/04/08

株式会社日建設計総合研究所

村井絢香

大手建設会社にて設備設計(電気・機械)に7年、設備施工管理に3年従事。大規模病院、歴史的建築物の復興、放送局、大規模再開発等のプロジェクトを担当しながらZEB設計ガイドライン・設計ツールの社内開発にも携わる。その後スタートアップ企業に転職。設備部門の立ち上げを行い、事業主として設備PMおよび設備設計に2年従事。設計・施工・事業主の3つの視点を強みに、現在は日建設計総合研究所の研究員として環境・エネルギー分野の調査研究とコンサルティングを行っている。

建築設備界隈の皆様、毎日のお仕事お疲れ様です。本日は前回の”設備の実務に大事なのは「段取り力」 基本設計編”に続き、実施設計編をお話ししたいところですが、その前に「基本設計と実施設計の境目ってどこなの問題」を整理したいと思います。

これは人によりばらつきが大きい部分で、所属組織やキャリアを積んだ時代背景によって様々な意見があると思いますが、ゼネコン設計部でキャリアの基礎を形成した人の視点から整理をしてみます。

1. フロントローディングの普及

私が設備設計のキャリアを積み始めたのが2013年頃、フロントローディングの概念が実務者に浸透していった時期だったと記憶しています。

ここでいう「フロントローディング」は「基本設計段階から施工計画をして設計図に反映する」を意味しており、①施工性に起因した設計変更が実施設計で発生するのを回避する②省人化工法を設計図書に盛り込むの2つの大きな目的がありました。

この考え方は「設計が進むにつれて変更コストが指数関数的に上がる」ことを示したマクレミーカーブの思想に基づいており、新人だった私も(何の会議だったか忘れましたが)画面に映し出されたマクレミー曲線を見て超納得した記憶があります。

2. BIMの普及

フロントローディングの文脈で必ず登場するのがBIMです。国土交通省がBIMを推進し始めたのが2010年頃、各ゼネコンで活用し始めたのがちょうど私が設備設計を始めた頃でした。私の処女作は社内初の「一気通貫フルBIMプロジェクト」、つまり、建築図、構造図、設備図をすべてBIMモデルの切り出しで作図し、施工図に展開するというものでした。BIMの可能性を最大限引き出す試験的なプロジェクトでもあり、わずか700m2ほどの平屋でしたが、チャレンジングなプロジェクトを任せてくれた当時の上司とサポート頂いた先輩方には大変感謝しています。

 BIMモデルから設計図を作る場合、複線で作図したものを単線に変換して設計図に仕立てるので従来と比べて設計者の業務が「増えた」と思われがちですし、実際そうなのだと思いますが、私の考えるBIM最大のメリットは「合意形成のコストが減る」ということです。

意匠設計者に「設備機械室の必要な広さと機器配置を教えて」と言われて提出したところ、「機械室小さくしてもおさまったよ!メンテナンススペースを600mm取ってあるから大丈夫です!」ときっちり600mm間隔で機器が整列された平面図が返送されてきたご経験は皆さんありますか?ありますよね?「そういう問題じゃないんだよ」と机の下で拳を握りしめながら、意匠設計者にダクト配管や基礎のスペース、計器類の点検スペースを説明する…が伝わらない、いちいち「600じゃなくて550じゃだめなんですか?」とか聞かれる、気付いたら3時間くらい説明してる、みたいな生産性ゼロの時間を過ごすくらいなら、その時間でサブメインくらいまでダクト配管ケーブルラックをぱっと書いて3Dで見せるほうが生産的だよね、というのが私のスタンスです。愚痴っぽくなりましたが、BIMの普及により従来実施設計の範疇だった「おさまり検討」を、基本設計で一定以上の精度をもって8割方終わらせられるようになった感覚です。

3. 3Dモデルベースの環境シミュレーションやビジュアル検証のフロントローディング

BIM普及の数年後、2015年頃からRhino+grasshopper(およびそのプラグイン)のような3Dモデリングからシミュレーション(パラメトリックスタディ含む)をシームレスに展開する設計が可能になりました。実務的にはシミュレーション用にモデルを処理したりで完全シームレスでなかったりもしますが、ZEB化のためのボリュームスタディ、昼光利用のスタディ等が実施しやすくなり、環境的なKPIが設定されているプロジェクトは初期検討がしやすくなりました。また、3Dモデルベースのビジュアル化技術も発展し、建築主との建築プランの合意形成もしやすくなったのではないかと思います(合意がとれるかはまた別の話ですが)。

4. つまりどこが境目なのか

マクレミーカーブの思想に基づいた「境目」は、「実施設計は作図のみ、設計変更はしない」ということになります。工事費の高騰や施工者の人手不足の社会背景から考えると、これが現在の最適解なのだと思います。ただしこれを実現するには設計のテクニカルな検討もさることながら、建築主との合意形成が一番重要だったりします。「提案力」と「段取り力」ですね。

前置きに連載1回分使ってしまいましたが、次回は実施設計の「段取り力」についてお話しします。

※本記事の内容は筆者個人の見解であり、所属組織の調査研究に基づく公式な見解を示すものではありません。また、特定のサービスや商品のプロモーションを目的としたものでもありません。