構造設計者が先輩・上司に相談するときに意識すべきこと|実務経験者が解説

構造設計者が先輩・上司に相談するときに意識すべきこと|実務経験者が解説

#構造設計のイロハ

最終更新日:2026/03/25

沖原 圭佑

Fortec Architects株式会社

沖原 圭佑

大手建設会社に11年間、構造設計者として従事。工場・研究所・教育関連オフィス・ホテルなど、様々な建物種別に携わった。その後、ライティング技術を身に付けて建築ライターとして独立。建築・不動産・建設DXなど、幅広い建設・建築コンテンツの執筆を手掛けながら、ベンチャー企業の施工管理アプリ開発のアドバイザリー業務なども行っている。現在はFortec Architectsの構造エンジニア兼建築ライターとして活動中。

構造設計は、非常に広範かつ専門的な知識・技術が求められる仕事です。そのため、他の業界と比べると独り立ちできるのが遅い傾向があり、同期の活躍をみていると実力不足だと感じてしまうシーンが少なくありません。しかし、それは恥ずべきことではなく、構造設計という仕事の特殊性を考えると当然のことといえます。

そこで今回は、構造設計の実務で抱えた悩みを上司や先輩に相談する際に意識すべきことについて解説します。相談前に必要なマインドセットや準備についてもご紹介しますので、上司・先輩の力を借りながら早く一人前の構造設計者になりたいという方は、ぜひご覧になってみてください。

基本的なことでも積極的に相談する

「なんでも気軽に相談しましょう」というのは、どの職種でもアドバイスされることですよね。しかし、あまりにも基本的な内容だと感じていると相談しにくいものです。構造設計は、経験を積んでも未経験の課題に遭遇することが多い仕事なので、基本的なことでも恐れず積極的に相談することがなおさら大切です。

多くの構造設計者は、大学で鉄筋コンクリート・鉄骨・木造といった特定の構造種別や、特殊な架構形式、地震動などについて学んでいます。しかし、会社に入社して実務に携わると、いきなりすべての構造種別・架構形式を扱うことになります。さらに、一つの建物の構造設計をやり切るためには、地盤や地震動、基礎構造、メーカー製品、建築的な納まりといった構造に関する幅広い専門知識が必要です。筆者の感覚では、これらを自由に扱えるようになって一人前の構造設計者として活躍するには、10年程度の実務経験が求められます。構造設計の初級者が「わからないことばかりだ」と感じるのは、ごく普通のことなのです。

実務経験が長くなったとしても、例えば集合住宅ばかりを担当していると、鉄筋コンクリート造の理解は深まる一方で、鉄骨・木造に関してはなかなか経験を積めないケースもあります。その場合、10年以上の経験を積んだとしても鉄骨造の設計ができないのは当たり前ですよね。大切なのは、自分が経験したことをしっかりと積み重ねていくことです。日々の研鑽を忘れなければ、今の自分がわからないことを恥ずかしがる必要はありません。

前もって声を掛けておく

上司・先輩は、多くのプロジェクトを抱えながら多忙な日々を送っています。後進育成に積極的で、いつでも相談に乗ってくれる上司・先輩が相手でも、時間には配慮するべきです。相手の負担が減るだけでなく、しっかりと時間を決めて相談した方が中途半端に話を区切られてしまう心配が少なくなります。

おすすめなのは、始業もしくは昼食のタイミングで「”午前中のどこかの時間”で、Aプロジェクトの”構造モデルの組み方”について”30分ほど”相談させてください。」と声を掛けておくことです。このように「いつ」「何を」「どれくらいの時間で」相談したいかを伝えておくことで、上司・先輩は相談内容をイメージしながら時間を調整できます。その場で話をして解決できるかもしれませんし、時間がかかりそうな内容であれば別のタイミングでより長い時間を取ってくれるでしょう。

こういった気遣いを大切にしながら、相談しやすい関係性を築くことが大切です。

相談する前に状況整理

相談をする前には、必ず自分で状況を整理しておきましょう。その際に意識すべきなのは、以下のようなポイントです。

・関係者

・経緯

・問題の原因・内容

・理想の結論

具体的な例をみてみましょう。

【相談の例:実施設計のタイミングで構造の梁と設備配管が納まらなくなった】

基本設計から実施設計に移行したタイミングで、構造の梁と設備配管が納まらないことが判明するというよくある事象です。状況を整理してみましょう。

・関係者:建築主、意匠設計者、構造設計者、設備設計者

・経緯:基本設計は仮定断面で進めていたが、実施設計のタイミングで梁が大きくなり、設備配管と干渉してしまった

・問題の原因・内容:建築主の要望で積載荷重が大きくなり、当初の梁サイズでは耐力が不足したため、梁が大きくなった

・理想の結論:天井高を変えないまま梁と配管の干渉をなくしたい

このケースは建築主要望が発端なので、それに伴い天井高を小さくすることについて納得してもらうこともできるかもしれません。しかし、意匠設計者としては天井を下げずにできるだけ大きな空間をつくってあげたいと考えるでしょう。そのため、理想の結論は、天井高を変えないで梁と配管を納められることです。

上司・先輩からのアドバイスとしては、以下のようなものが考えられます。

①梁下を通すのではなく、梁貫通で配管を通す

②ハンチ形状にして中央の梁せいを小さくする

③設備ルートの変更を考える

④設備配管を分けて径を小さくする

⑤解決策がない場合は天井高を小さくする

①~④の方法で解決できれば天井を下げずに干渉を回避できます。いずれも実現できない場合は天井を下げるしかないかもしれませんが、上司や先輩に相談することで自信を持って意匠設計者や設備設計者に伝えられるようになるでしょう。

このようにスムーズに話を進めるには、状況と理想の結論を丁寧に説明することが大切です。課題に直面したときにすぐに相談するのではなく、まずは自分の中で状況を整理することを意識しましょう。

相談するときは答えを用意していく

筆者は、上司や先輩に相談する際、必ず自分なりの答えを用意していきます。これにより話がスムーズに進むだけでなく、「何がわからないのか」「何に不安を感じているのか」「自分の論理に間違いはないか」といったことを明確に把握できるようになり、成長に繋がるからです。

何も考えずに答えを聞いてしまうと、その場は進められても、自分の成長に繋がらないケースが少なくありません。前述の梁と配管の干渉の例でいえば、①~⑤のうちのベストな解だけを上司・先輩から教えてもらうだけで終わってしまいます。ここで自分から「②ハンチ形状にして中央の梁せいを小さくする」という案を示すことができれば、「それがいいね」と考え方に自信をつけてもらえるかもしれませんし、「梁を少し大きくすれば「①梁下を通すのではなく、梁貫通で配管を通す」という考え方もある」と教えてもらえるかもしれません。

自分の答えを用意することで、考え方に間違いがないかを確認できたり、別の案を提示してもらった上で比較できたりするため、知識やノウハウが蓄積されて次回は自分で解決できるようになるのです。

アドバイスのメモを取る

相談をしていると、つい話に夢中になってメモを取るのを忘れてしまいがちですが、重要なポイントや論理の組み立て方は記録に残すようにしましょう。最近はPC・タブレットのソフトウェアやアプリケーションが充実しているため、使いやすいツールを見つけてデータで保存しておくのがおすすめです。

メモは、後で課題やアドバイスを振り返るのに役立つのはもちろんのこと、メモを取るという行為自体が記憶に紐づくため、考え方が身に付きやすくなります。相談する際はメモの道具を携帯することを習慣づけ、記録と記憶に残すようにしましょう。

プレッシャーを感じているときほど相談してみる

構造設計をしていると、ときには強いプレッシャーを感じる場面があります。構造検討に不備があったせいで空間構成に大きな変更が生じてしまったり、建設費が上がってしまったりなど、自分のミスが原因だと上司や先輩に相談しにくくなるものです。このような悩みを一人で抱えてしまうと、仕事が辛くなってしまいます。

筆者の経験では、例え自分のミスが原因であったとしても、こういったプレッシャーを強く感じているときほど潔く上司や先輩に打ち明けた方が前に進みやすくなります。自分としては重大な問題を発生させてしまったと感じているかもしれませんが、上司や先輩も同じような経験をしたことがあるケースがほとんどです。正直に打ち明けることで、上司や先輩も精神的な部分で寄り添いやすくなりますし、解決の糸口を示せるようになります。プレッシャーを感じるときは他部署・他社といった対外的な関係者と相対している場合がほとんどなので、味方がいると感じられるだけでも気持ちが楽になるものです。

自分の力で解決を試みることも大切ですが、思い詰めてしまうようなときは素直に上司や先輩に話を聞いてもらいましょう。

おわりに

実務経験が浅いうちは、上司や先輩からの評価が気にして「自分はできる」と誇示したくなるかもしれませんが、上司や先輩が評価するのはそのときの能力だけではありません。課題に取り組む姿勢や自ら目標設定をして壁を乗り越える能力といった「自力」に加え、周りのアドバイスを聞き出す、仲間に助けてもらう能力などの「他力を利用する能力」も評価されています。構造設計は幅広い分野の深い知識や技術が求められ、優秀な人材であったとしても一人でやり切ることは難しいからです。自分の能力を磨くことも大切ですが、上司や先輩とのコミュニケーションを通して仲間の力を借りる能力も養っていきましょう。