人材マネジメントと現場デジタル化による生産性向上 ――「建設DX×CCUS」オンラインセミナー

人材マネジメントと現場デジタル化による生産性向上 ――「建設DX×CCUS」オンラインセミナー

#イベントレポート

最終更新日:2026/03/30

KENGI 編集部

株式会社建築技術

KENGI 編集部

2026年2月18日、株式会社かんぽ生命保険主催による、建設業界の経営者および従業員を対象としたオンラインセミナー「建設DX×CCUS―人材マネジメントと現場デジタル化による生産性向上」が開催されました。

深刻な人手不足と生産性の停滞が喫緊の課題となる中、業界共通インフラである「建設キャリアアップシステム(CCUS)」の活用と、最新の「AIエージェント」による業務変革に焦点を当てた本セミナーは、約500名の参加者が集まり、業界の関心の高さが伺えるイベントとなりました。

第1部:建設業バックオフィスDXと建設キャリアアップシステム(CCUS)

講師:長谷川 周夫 氏(一般財団法人建設業振興基金 専務理事)

第1部では、一般財団法人建設業振興基金 専務理事 総務企画本部長 兼 建設キャリアアップシステム事業本部長の長谷川周夫氏が登壇し、建設業特有の産業構造を踏まえた生産性向上の必要性を解説しました。

建設業の産業構造

長谷川氏は、建設業が「単品受注生産」であり、現場ごとに最適な体制を構築するために重層下請構造が形成されていることを説明しました。

製造業のような装置産業とは異なり、建設業は人を中心とした労働集約型産業であり、「同場所異時点」という特性を持ちます。これは、必要な場所で生産が行われる一方、消費は完成後に行われるため、製造業とサービス業の中間的な性質を有していることを意味します。この特性が需要変動の影響を受けやすい構造を生み、アウトソーシングや重層下請構造の発達につながっていると分析しました。

調査によれば、下請企業が特定の元請に専属する割合は低く、多くの企業が複数の取引先を持つ「N対N」の構造になっています。

              講演資料より引用

この構造下では、各社が個別にIT投資を行っても、取引先ごとに異なるシステムへのデータ入力を求められるなど非効率が発生し、業界全体の最適化につながりにくい課題があると指摘しました。

バックオフィスDXとCCUSの現状

生産性向上は現場レベルだけではなく、企業レベル、企業間レベル、地域レベルで捉える必要があると強調しました。現場のデジタル化が急速に進む一方、事務作業や関係機関との調整などの「バックオフィス業務」では紙文化や属人性が根強く残っています。ここで重要となるのが、業界共通の標準ルールと基盤の活用です。

その標準ルールの一例が、1991年にスタートした電子商取引「CI-NET(*1)」です。

               講演資料より引用

異なるベンダー間でも見積や請求データを交換できる仕組みであり、N対N取引が発生する建設業界において二重入力の負担を軽減する鍵となります。2026年現在、活用企業は20,572社に達し、業界のデジタル基盤として定着しています。

この普及を後押ししたのが、2025年度に実施された「建設バックオフィス業務DX推進支援助成事業」であり、28件・1,042社が採択されました。これにより、中小建設企業が元請や団体主導で「標準化」の波に参加することが可能となりました。

CCUS:技能者の処遇改善と現場管理の効率化

「建設キャリアアップシステム(CCUS)(*2)」は、2026年1月末時点で技能者登録数が179万人に達し、ほぼ2人に1人が利用しています。登録事業者は約20万社、累計就業履歴数は2.49億件と、業界規模のインフラに成長しています。

               講演資料より引用

CCUSに蓄積された就業履歴は技能者の能力評価に基づく処遇改善に活用されると同時に、現場管理の効率化にも寄与します。特に、2021年に開始された建退共(建設業退職金共済)とのデータ連携によって、証紙貼付作業が不要になるなど事務負担が大幅に軽減されました。さらに法改正によって、公共工事における施工体制台帳の提出義務も合理化されています。

また、CCUSの情報はAPIを通じて民間事業者にも提供されており、約8割が入退場管理サービスから送信されています。今後は技能者情報も提供することで、複数の企業での重複入力を削減したいと説明しました。

最大の目標は技能者の処遇改善と担い手の確保・育成です。資格や履歴を業界横断的に登録・蓄積することで、若手世代がキャリアパスを描きやすくなり、技能者を雇用・育成する企業に人材が集まる好循環を目指しています。


第2部:AIエージェントとBIMで変える建設業の働き方

講師:中島 貴春 氏(株式会社フォトラクション 代表取締役CEO)

第2部では、株式会社フォトラクションの中島貴春氏が登壇し、BIMとAIの組み合わせによる働き方改革について解説しました。建設業界には、①BIMモデルの施工活用の加速、②視覚情報からAIが業務を代行、③AI開発によるIT投資効率化、④AIエージェントによる人手不足の解消という4つの潮流があると説明し、「デジタルゼネコン」という新しいスタイルを提示しました。

生産性を阻む「記録・比較」のコスト

中島氏は、生産性低下の根本的原因として、現物と図面・基準を照合する「記録・比較」の膨大なコストを指摘しました。

              講演資料より引用

建設はプロジェクトごとに異なる「一品生産」であり、確認作業には必ず人の介在が必要となります。このアナログプロセスをテクノロジーで自動化することが、生産性向上の焦点になると述べました。

SaaSからBPaaS、そしてAIエージェントへ

建設DXは、ソフトウェア提供の「SaaS」から、AIとBPO(業務代行)を組み合わせて業務プロセス全体を支援する「BPaaS」へ移行しています。その進化形が「AIエージェント」であり、AIが自律的にソフトウェアやファイルを操作し、人間の指示に基づいて業務を遂行します。

具体事例として、建設特化型AI「aoz cloud(*3)」を用いた配筋検査の自動化を紹介しました。

              講演資料より引用 

AIがBIMモデルやPDF図面から情報を抽出し、電子黒板や検査シートを自動生成することで、数時間かかっていた準備作業が大幅に短縮されます。他にも施工計画書や確認申請書類の自動生成など、AIエージェントがデジタル上の作業を代行し始めています。

「デジタルゼネコン」の概念と未来

              講演資料より引用

中島氏は、1850年代にゼネコンが誕生し、1950年代にはハウスメーカーが登場したように、2025年以降はテクノロジーで労働力を増幅する「デジタルゼネコン」の時代になると予測しました。デジタルゼネコンは従来の施工管理機能に加え、デジタルを前提とした組織運営を行います。人は現場の高度な判断やクリエイティブな管理に集中し、煩雑なデジタル作業はAIエージェントが処理する未来像を示しました。また、DXは単なる効率化ではなく、今後は自社なりのDXジョンを持って組織や役割分担を再設計することが重要になってくると述べました。


まとめ

本セミナーを通じて明らかになったのは、建設DXの本質は単なるツール導入ではなく、業界共通インフラによるデータ標準化と最新テクノロジーによる業務効率化の複合的活用にあるということです。CCUSによる評価・処遇改善とAIエージェントによる負担軽減は、建設業が「選ばれる産業」として再生するための両輪となります。企業がデジタル基盤を共有し、人とテクノロジーが共生する「デジタルゼネコン」への進化を目指すことが、次世代の建設業を開く鍵となるでしょう。


(*1)CI-NET https://ci-net.kensetsu-kikin.or.jp/hajimete/index.html

(*2)建設キャリアアップシステム(CCUS) https://www.ccus.jp/

(*3)aoz cloud https://corporate.photoruction.com/aoz