ものづくりの原点から、現場へ

ものづくりの原点から、現場へ

#ENGINEERS

最終更新日:2026/05/12

KENGI編集部

株式会社建築技術

KENGI編集部

©川澄・小林研二写真事務所

ものづくりの原点から、現場へ

 建設現場の第一線で施工管理に携わってきた岡田氏にとって、その仕事観の原点は、幼少期に体験した「ものづくり」にあります。父親はプラントの設計者で、趣味はDIY。家の中には常に図面があり、ソファや倉庫、屋外の小屋といったものを作っていました。

 そうした中で、小学校4年生のときに自分も作ってみたいと思い、巣箱づくりに挑戦します。板を組み、屋根をつけ、入口に三角形の穴を開ける。父親に道具を借りながら見よう見まねで完成させたその巣箱に、実際に鳥が入り、卵を産んだ――その出来事が、後に建築の仕事を志すきっかけになっていきます。

「やったことがそのまま形になって、ちゃんと使われる。それを目の前で見たときに、あ、これは面白いなと思ったんですよね」

 高校時代は野球部に所属し、日々の練習や試合の中で、チームとして結果を出すことの難しさと面白さを体感しました。個々の能力には差があっても、それをどう組み合わせるかによって結果は変わる。そのためには衝突や対話を避けずに積み重ねていく必要がある――そうした感覚を、この時期に身をもって学びます。

「チームとして勝つにはどうすればいいかっていうのは、結構そのときに考えましたね」

 この経験は、後に多くの人と関わりながら現場を動かしていくうえでの土台となっていきます。

 高校進学後、自身の適性についても考えるようになりました。暗記して処理するよりも、理屈を理解し、それを組み立てていく方が性に合っている――そう感じたことから、自然と理系の道を選びました。

ー理系を選ばれた理由はどのあたりにあったのでしょうか

「答えは決まっていても、そこに行くまでの考え方がいくつもあるのが面白かったんですよね」

 たとえば三角形であれば、三辺が決まれば面積は必ず求められる。しかし、その導き方はいくつもあり、「なぜこの公式になるのか」と考えていく過程そのものに面白さを見出していたといいます。

 大学進学にあたっては、形として残る分野に関わりたいという思いが明確になり、機械工学や建築といった選択肢の中で、最終的に建築を選んだのは、目に見える形で残る仕事に魅力を感じたためでした。

 五重塔のように地震でも倒れない構造はどのように成立しているのか、建物はどのような理屈で形を保っているのか――そうした疑問を突き詰めていく中で、単に理解するだけでなく、それが実際に立ち上がっていく過程そのものに関わりたいという思いが強くなっていきます。

 進路を選ぶ段階で岡田氏が軸にしていたのは、「どの立場か」ではなく、「どのように関わるか」という点でした。図面を描くことよりも、現場で人や工程が動きながら、一つのものができあがっていく過程そのものに関わりたい。自分が関わることで、それが形として立ち上がっていく実感を持ち続けたい――そうした思いを突き詰めたときに行き着いたのが、ゼネコンでの施工という選択でした。

「自分が関わることで、ものが実際に形になっていく。その過程に一番近いところにいたいと思ったんです」

そうした実感を持てる場所として、岡田氏は現場の施工職を選びました。

「誰かの役に立っている」という実感

 ゼネコンに入社すると、現場には自分よりもはるかに年上で、その道の経験を積んできた作業員や先輩ばかりがいました。いわば“親父世代”のプロに囲まれる環境の中で、最初は戸惑いも大きかったといいます。

 分からないことは自分から聞きにいくしかありません。職長のもとに足を運び、「どうすればいいか」を教えてもらいながら、自分の中に落とし込んでいく。その積み重ねの中で、単に知識や技術を覚えるだけではなく、複数の職種をどうつなぎ、現場全体をどう動かしていくかという感覚も、少しずつ身についていきました。

「作業員さんに育てられたっていう感覚はありますね」

―どのような場面が印象に残っていますか

「3年目か4年目ぐらいですかね。大きな現場で鉄筋担当を任されたんですけど、ほぼ分からないところからのスタートでした」

 配属されたのは、大規模再開発の現場でした。鉄筋工事だけでも一班15人規模、それが複数班動くような現場の中で、担当として一人で立つことになります。工程管理や段取り、資材の受け入れ、他職種との調整など、すべてを自分で回さなければならない状況でした。

「職長さんとずっとやり取りしていましたね。“これだとできないよ”って言われながらも、“じゃあどうすればできるか”というのを一緒に考えていく感じでした」

 鉄筋工事だけを見ていれば成立する仕事ではありません。型枠、コンクリート、設備工事など、それぞれの工程とぶつかり合いながら、全体として成立する形を探っていく必要があります。

「当然、しわ寄せも出ますし、“なんでできないんだ”って言われることもあります。でも全体の目標は決まっているため、どこかで調整しないといけません。その中で難しい条件でお願いする場面もありました」

 できないよと怒られたり、そんなやり取りを何度も繰り返しながら、それでも対話を続けていく。

「最後のほうは、“いや、この人数と量なら、できないことはないと思うんですけど”とこちらが伝えると、その要望に対して前向きに応えてもらえるようになりました」

 ぶつかりながらも関係を積み上げていく中で、少しずつ現場の空気が変わっていきます。

 およそ1年半にわたる担当期間を終えたとき、職長からかけられた言葉が強く印象に残っているといいます。

「岡田、次どこ行くんだって言われたんです。“困ったら連絡くれ、すぐ手伝いに行ってやるから”と言ってもらうことができました」

 その言葉を聞いたとき、初めて「自分が役に立てていた」と実感できたと岡田氏は話します。

「現場の職長さんにそう思ってもらえたっていうのが大きかったですね。ああ、自分はこの人たちの役に立てたんだなって」

 現場では、常に全体最適を求められます。一つの職種だけを優先すれば、別のどこかにひずみが出る。その中で、衝突を避けずに対話を重ね、納得できる着地点を探り続けることが、施工管理の役割でもあります。

 そうした経験を通して岡田氏が強く感じたのは、「誰かの役に立っている」という実感の大切さでした。

「自分にとっては仕事って、誰かの役に立ってるって思えたときに、一番やりがいを感じるんですよね」

 現在は工事部長として、施主や設計者と向き合う立場にもありますが、その根底にある感覚は変わっていないといいます。

「もちろん建築主の方からの言葉はとても嬉しいですけど、一緒に働いてきた作業員さんにどう思ってもらえるかは大きいと思います」

 特に印象に残るのは、厳しくぶつかり合ってきた相手から認められた瞬間です。

「よく衝突を避けずに対話をした人ほど、“いつでも呼んでくれ”って言ってくれるんですよね。ああ、ちゃんと見てくれてたんだなと感じます」

 現場で積み重ねてきた関係性と信頼。その一つひとつが、岡田氏の仕事観を形づくってきました。

人を動かす難しさと、任せるという判断

―所長になられてから戸惑われたことはありますか

「いっぱいありますよ」

 岡田氏がまず挙げたのは、技術ではなく「人のマネジメント」でした。現場に出た当初は、構造や施工方法といった技術的な理解に追われますが、経験を積むにつれて部下を持つようになり、そこで初めて別の難しさに直面します。

「人が増えると、やり方次第で半分の力にもなるし、倍以上にもなる。そのマネジメントをどうすればいいのか、そこが最初の戸惑いでしたね」

 さらに所長という立場になると、その難易度は一段と上がります。数人規模の現場であれば目が届いていたものが、数十人規模になると、すべてを細かく見ることはできなくなる。全体を俯瞰しながらも、現場は部下に任せ、必要な情報だけを受け取り、判断していく――そのバランスが求められます。

「全体は見ているんですけど、細かいところは任せるしかない。その中で方向がずれていないかを確認しながら、全体のベクトルをそろえていく。そこが一番難しかったですね」

 プレイヤーとして自分が手を動かしていた頃とは違い、役割は徐々にマネジメントへと移行していきます。

「最初は一割ぐらいだったマネジメントが、だんだん九割になっていくんですよね」

 しかし、その変化の中で得られる手応えもあるといいます。部下の力が引き出され、チームとしての力が何倍にもなる瞬間です。

「良いチーム力が発揮されると、10人で20人分以上の力が出たりするんですよ。ああいうのを見ると嬉しいですね」

―若手を育てるうえで、意識されていることはありますか

「いろいろありますけど、極端な方向性に寄りすぎないことですかね」

 岡田氏は、いわゆる「トップダウン型」なやり方について、その即効性を認めつつも、限界があるといいます。

「確かに一見効率はいいですが、部下が自身で考える機会が減ってしまうと考えています」

 一方で、完全に任せきりにすると、組織はまとまりを失ってしまう。そのため、両者の間でバランスを取ることが重要だといいます。

「基本はボトムアップですけど、必要なときだけちょっとトップダウン型に寄せる。極端に振れないように、その真ん中でやる感じですね」

 そして、組織が軌道に乗ってきた段階では、できるだけボトムアップに委ねていく。

「最終的には、やはり自分で考えて動く方が伸びると思いますね」

 その考え方を象徴するのが、「失敗の扱い方」です。

「小さな失敗は、むしろ経験させた方がいいと思っています」

 自らも失敗を重ねながら学んできた経験から、あえて手を出さずに見守る場面もあるといいます。

「ここ失敗するなって分かっていても、あえていわないこともありますね。もちろん大きな損失になるものは止めますけど、取り戻せるレベルだったら経験させた方がいい」

 それは決して放任ではなく、あくまで「見守る」というスタンスです。

「子どもが階段を上がるときに、後ろで見ている親みたいな感じですね。転びそうだけど、頭打たないようにだけ気をつけて見ている」

 時にはあえて遠回りさせることもあります。

「明らかにそっちは違うって分かっていても、崖の手前まで行かせることもありますね。気づいて、あ、戻ってきたなって」

 自分で気づいて戻る。その経験こそが、次につながると考えています。

「結局、誰かに言われてやったことって、あんまり残らないんですよね」

 だからこそ、自分で考え、自分で選び取るプロセスを重視する。その積み重ねが、チームとしての力を底上げしていくと岡田氏は話します。

―「TODA BUILDING」の現場では、挨拶や動きといった基本的な行動をあえて共有し、現場の雰囲気づくりにも力を入れていたと伺いました。こうした“空気”の部分は、現場運営にどのように影響すると考えていますか

「現場の空気ってすごく大事だと思っています。ある程度、声が出ていないとダメなんですよね」

 静まり返った空間は、一見すると落ち着いているようでいて、実際にはどこか緊張が張り詰め、声をかけづらい空気を生みがちです。そうした状態では、報告や相談といった基本的なコミュニケーションも滞りやすくなります。

「シーンとしてるだけの現場って、あんまり良くないと思っていて。多少ワチャワチャしていても、その中でちゃんと緊張感があるくらいがちょうどいい」

 自由に声が行き交い、必要なときにはすぐに相談できる。そうした状態が、結果的に現場全体の精度を高めていくといいます。

 その土台として意識されていたのが、「挨拶」という極めて基本的な行為でした。

「来たら“おはようございます”、帰るときは“お疲れさま”。本当にそれだけなんですけど、それが大事なんですよね」

 当時の作業所長は、毎朝現場の出入口に立ち、作業員に挨拶をし続けていたといいます。最初は挨拶を返してくれない作業員も一部いたようですが、十日ぐらい続けると、挨拶が返ってくるようになったそうです。

 その繰り返しの中で、現場の空気は徐々に変わっていきます。声をかけることが当たり前になり、会話のハードルが下がり、自然とコミュニケーションが生まれる。

「そうすると、現場を歩いていると“ちょっと困ってるんだけど”って声をかけてもらえるようになるんですよね」

 挨拶という小さな行為が、結果として情報共有のしやすさや、問題の早期発見につながっていく。そうした積み重ねが、現場全体の質を底上げしていくのです。

「誰でもできることなんですけど、だからこそ大事だと思いますね」

「本当にできるのか」という視線を乗り越えたプロジェクト

―これまでの中で、特に印象に残っているプロジェクトはありますか

「たくさんありますけど、やっぱり一つの転機になったのは、大規模な超高層オフィスビルの現場ですね」

 当時、そのプロジェクトは、これまで同社として十分な実績のなかった領域に挑むものでした。周囲には大手ゼネコンが並び、施主や設計者からも「本当にできるのか」という目で見られる中で、工事はスタートします。

「同じレベルでやっても意味がない。それ以上のものを見せて、評価を覆そう、という方針だったんです」

 高いハードルを課された状態でのスタートでしたが、最終的にはその期待を超える成果を出し、プロジェクトは高い評価を得て完了します。

「複数ある工区の中で一番良かったと言ってもらえるような仕事ができて、そこから流れが変わりましたね」

 その経験が、後の大型案件や、「TODA BUILDING」の施工へとつながっていきます。岡田氏にとっても、会社にとっても、一つの転機となるプロジェクトでした。

―その現場で、特に印象に残っている出来事はありますか

「担当していたメンバーが、今思うとかなり若かったんですよ」

 現場の中核を担うメンバーの多くが30代前半以下。超高層の経験も十分とはいえない状態でのスタートでした。

「途中で、急にグループをまとめる立場になったんです。それまで横並びでやっていたメンバーを、自分が束ねることになりました」

 突然の役割の変化に、戸惑いも大きかったといいます。

「正直、どうやってまとめればいいのか全く分からなかったですね」

 それでも現場は進んでいきます。個々のメンバーはそれぞれに強いこだわりと能力を持ち、ぶつかり合いながらも仕事を進めていく――いわば“扱いづらいが力のある集団”でした。

「個性の強いメンバーが揃っていて、ぶつかりながらやっていましたけど、チームワークは良かったと思います」

 そうした経験の中で、後に自身のマネジメントの軸となる考え方にも出会います。

「当時の工事長や作業所長が、どっしり構えていたんですよね。“絶対大丈夫だからやれ”っていう感じでした」

 細かく指示を出すのではなく、大きな方針だけを示し、あとは任せる。その一方で、要所ではしっかりと方向を示す――その距離感が、現場に安心感を生んでいました。

「見守られている感じと、任されている感じ、その両方がありましたね」

 振り返ると、その経験が現在の自身のスタイルにもつながっているといいます。

「今、自分がやっていることは、あのときと同じだと思います」

一気通貫を経験することで、仕事の全体像を理解する

 その後、「TODA BUILDING」でも、あえて経験の浅いメンバーを中心としたチーム編成に踏み切ります。

「普通なら経験者を配置して効率よく回すと思うんですけど、あえてそうしなかったんです」

 大規模作業所で一般的となっている施工管理業務を、計画と施工に分業せず、一人の担当者が一連の流れを経験する形をとりました。

「効率は正直よくないです。でも、その分、確実に力はつくと考えました」

 すべてを一気通貫で経験することで、仕事の全体像を理解し、次の現場で応用できる力を身につけてほしい――そうした意図がありました。

「分業だとその部分しか分からない。でも全部やれば、つながりが分かるんですよね」

 もちろん、そのやり方は簡単ではありません。施工も分からない状態で計画を任される。施工を理解しながら計画を考える。その中で失敗も起きます。それでも、そのプロセス自体に意味があると岡田氏は考えています。

「分かった上でやるのと、分からないままやるのとでは、できあがるものが違うんですよ。みんな大変な思いをしてましたけど、やりきって、自信を持って次に行ってくれたのが一番嬉しかったですね」

 効率だけでは測れない“成長”を重視した現場。その経験は、岡田氏のマネジメント観をより強く形づくるものとなりました。

工程を組み立てる力

―部下に求める技術的なスキルについて、最も重視されていることは何でしょうか

「一つに絞るのは難しいんですけど、現場って基本はQCDSなんですよね」

 品質(Quality)、コスト(Cost)、工程(Delivery)、安全(Safety)。施工管理においては、この四つの要素をバランスよく成立させることが求められます。

「どれか一つだけ良くてもダメなんです。例えば品質が良くても工程が崩れたら意味がないし、コストだけ良くても安全が抜けたら成立しません」

 そのため、岡田氏が重視しているのは、特定の能力の高さよりも“全体のバランス”だといいます。

「100点と0点があるよりも、全部80点以上取れる方がいい建物になると思ってます」

 一方で、個々の強みを否定するわけではありません。品質に強い人、コストに強い人、それぞれの特性を活かしながらチームとして補完し合うことで、全体としての完成度を高めていくことも重要だといいます。では、そのバランスを支える“基礎的な力”は何か。

 岡田氏は、「工程を組み立てる力」を挙げます。

「最終形が頭の中で組み立てられるかどうか、そこが大きいと思いますね」

 プラモデルに例えると、箱を開けた瞬間に、どのパーツをどの順番で組み立てれば完成形にたどり着くかをイメージできるかどうか。それが、そのまま現場での工程理解につながるといいます。

「まず頭の中で一回建物をつくれるかどうか。それができると、あとは現場でそれに合わせて組み立てていくだけなんです」

 工程は単なる順番ではありません。その前段階には、仕様の決定、協力会社の選定、部材調達、図面検討といった一連のプロセスがあり、それらすべてがつながっています。

「ここに物が来るためには、その前に何を決めておかないといけないのか、どのタイミングで動かなきゃいけないのか、そこまで見えてくると、工程が“前から”組めるようになるんですよね」

 こうした力を測るために、若手にはあえて日常的な課題を任せることもあります。

「例えば事務所の引っ越しを任せるんですよ」

 引っ越しという一見単純な作業の中にも、工程管理の本質が詰まっています。レイアウトの決定、関係者への情報共有、インフラの整備、搬入出の段取り――すべてを逆算しながら組み立てていく必要があります。

「配置を決めて、合意を取って、いつ何をやるか決めて、みんなにアナウンスして。そこまでできる人は、現場の工程も組めるんですよ」

 逆に、思いつきで動いてしまうと、全体が崩れてしまう。

「結局、前段取りできるかなんですよね」

重視するのは「性能」

―現場で、設計図と実際の施工との間にギャップが生じる場面もあるかと思いますが、そのような場合にはどのように対応されているのでしょうか

「図面通りにいかない、というよりは、図面通りに“そのまま”つくるわけではない、という感覚のほうが近いですね」

 岡田氏は、まず図面をそのまま読み取るのではなく、一度自分の中で“立体的な建物”として組み立て直すといいます。構造図・意匠図・設備図を重ね合わせ、空間の中を人が動くイメージまで含めて、頭の中で建物を一度完成させる。

「そうすると、なんでこの形になっているのか、どういう機能を持たせたいのかが見えてくるんですよね」

 その過程で見えてくるのが、建築主のニーズ、設計者の意図、そしてその間に入り込んでいる“設計者側のこだわり”です。

「建築主のニーズとして必要な部分と、設計者の美意識とか思想として入っている部分って、やはり混ざるんですよ」

 その違いを見極めながら、過剰な仕様になっている部分や、逆に調整の余地がある部分を洗い出していく。コストや性能の観点から見て“落とせるポイント”や“入れ替え可能な部分”を見つけ、設計者と早い段階で協議する。

「ここはもう少しシンプルにできるんじゃないかとか、逆にここはちゃんと性能を担保したほうがいいんじゃないかとか、最初にすり合わせをしていきます」

 こうした設計段階でのすり合わせは「設計レビュー(DR)」として、施工側にとって非常に重要なプロセスです。

 施工側として特に重視するのは「性能」です。

「雨が漏れない、壊れない、長く使える――そういう基本性能を絶対に外さないことですね」

 意匠設計がデザインや表現に重きを置くのに対し、施工はあくまで“成立する建物”としての性能を担保する役割を持ちます。止水や耐候性、耐久性といった目に見えにくい部分こそ、施工側の責任領域です。

「10年、20年経ってもクレームにならないかどうか、そこを基準に判断しています」

 建築主、設計者、施工――それぞれの視点を行き来しながら、最終的に「誰にとっても納得できる状態」まで持っていく。その調整こそが、現場における重要な仕事の一つです。

いいものを作ろうという姿勢

―設計者や職人など、多くの関係者と協働する中で、意識されていることはありますか

「“いいものをつくろう”っていう意志があるかどうか、それが一番大事ですね」

 岡田氏が重視するのは、スキル以上に“姿勢”です。いい加減な気持ちで関われば、結果として仕上がりにもそれが表れる。一方で、本気で取り組めば、細部まで行き届いた仕事になる。

 そのため、議論がぶつかること自体はむしろ歓迎だといいます。重要なのは、プロとして向き合っているかどうか。

「設計者も作業員も、それぞれのプロなので。そのプロ同士がちゃんと向き合って議論していくことで、最終的にいいものになると思っています」

自分の家だったら嫌だと思うものは、絶対に引き渡さない

―これまでの中で、失敗だったと感じる経験、また、そこから学ばれたことはありますか

「技術的な失敗というよりは、マネジメントの失敗のほうが大きいですね」

 過去には、トップダウンの強い指示で現場を引っ張るようなやり方に偏ったこともあったといいます。しかし、そのやり方ではチーム全体の力が発揮されず、結果としてパフォーマンスが落ちてしまったといいます。

「やり方によって、チームの力って半分以下にもなるし、逆に一人ひとりの力を引き出せれば、何倍にもなるんですよね」

 そうした経験を経て、現在は個々の力を引き出すマネジメントへと変化していったと話します。

 一方で、技術的な失敗については、捉え方が少し異なります。

「本気で考えてやった結果の失敗は、失敗じゃないと思ってます」

 問題が起きたとしても、徹底的に直せばいい。むしろその経験が、次につながる“技術力”として蓄積されていくといいます。

「だからこそ、品質だけは絶対に妥協しない。自分の家だったら嫌だと思うものは、絶対に引き渡さない」

 その基準は極めてシンプルでありながら、強いものです。

 さらに岡田氏は、施工における“本当の価値”は、目に見えない部分に宿ると語ります。

「表面の傷とかは直せるんですよ。でも、構造とか、防水とか、見えないところはやり直しがきかない」

 建物の性能を支える根幹部分にどれだけ手をかけられているか。それが施工の質を決定づけるといいます。

 また、この仕事の特性として「経験による差」が非常に大きい点も挙げられます。

「ほとんどが経験工学なので、最初はみんなゼロからなんですよ」

 知識だけでは補えない領域が多く、現場での積み重ねがそのまま技術力になります。年数を重ねた作業員や技術者との差は簡単には埋まらない。

「10年やっている人には、やはり10年分の差があります」

 その一方で、経験はそのまま“自分の力”として残るため、確かな手応えもある仕事だといいます。

 現場では、協力会社との関係性も重要です。

「同じ会社でも、誰が来るかで全然違うんですよ」

 信頼できる人材に来てもらうために、あえて指名することもあるといいます。そうして築かれた関係の中で、言葉にしなくても伝わる“呼吸”のようなものが生まれる。

「この人となら大丈夫、っていう感覚はありますね」

チームで一つになる経験を大切に

―これから現場所長を目指す若手技術者に、一番伝えたいことは何でしょうか

「この仕事って、技術を磨くことは重要ですが、それだけではありません。コミュニケーションでも揉まれるし、いろんなトラブルにも対応しなくてはいけません。そういうことをずっと繰り返していく中で、人間力も磨かれていくのだと思います」

 現場では、日々何かしらの問題が起こります。そのたびに「じゃあどうするか」と考え、手を打ち、周囲と調整しながら乗り越えていく。その積み重ねが、仕事の場面に限らず、自分自身の考え方や生き方にも影響していくといいます。

「現場でいろんなことを解決していく経験を重ねていると、社会の中で別のトラブルが起きても、“じゃあこうやっていこうか”って自然に考えられるようになるんですよね。そういう意味では、人生そのものがちょっと豊かになるというか、強くなれる仕事なんじゃないかなと思います」

 だからこそ、将来所長を目指す若手には、単に仕事をこなすのではなく、チームで一つのものをつくる経験そのものを大事にしてほしいと話します。

「所長になるっていうのは、役職の話だけじゃなくて、部下や仲間が“この仕事をやってよかった”って思えるような現場をつくれるかどうかだと思うんです」

 仲間と一緒に壁を乗り越え、形あるものをつくり上げる。その過程で生まれる絆や達成感は、他ではなかなか得がたいものだといいます。

「やはりみんなで一つのものをやり切ったときの達成感とか、仲間との絆って、すごく大きいんですよね。もちろん、簡単な仕事ではありません。厳しさの先にあるものが、この仕事の魅力です」と岡田氏は語ります。

「気持ちを込めてつくる」という営みはこれからも残る

―建設業界の未来を、現場の視点からどのように見ていますか

「まだまだ泥臭い仕事だと思います」

 岡田氏はそう言います。機械化や効率化は進みつつあるものの、建設の現場はまだ完全に置き換えられる段階にはありません。担い手不足が進み、今後は工業化や新技術の導入がさらに求められていく一方で、最後のところではやはり人の手と判断が必要になると見ています。

「工場でつくったものを組み立てていくとか、ドローンを使うとか、そういう方向はこれからもっと進むと思います。でも、全部が全部そうなるわけじゃない。一品生産の世界ですから、やはり最後は人が考えて、人がつくり込んでいくところが残るんですよね」

 住宅のように規格化しやすい分野では工業化が進む余地がある一方で、建築主の要望や設計条件がそれぞれ異なる建築では、完全な均質化は難しい。だからこそ、「気持ちを込めてつくる」という営みは、これからも残っていくといいます。

「結局、想いや意思みたいなものが形になって出る仕事なので、そこはなくならないんじゃないかなと思います」

自分が作ったと言える建物を残す

―最後に現場所長という仕事の一番の魅力はなんでしょうか

 この問いに対して岡田氏は、まず「人として成長できること」を挙げました。

「仲間と一緒に成長できることですかね。人間的にも成長できるし、その中で仕事の達成感もあるし、絆もできる。そういう意味で、すごく充実感のある仕事だと思います」

 加えて、経験がそのまま技術力として蓄積されていく感覚も、この仕事ならではの魅力だといいます。五年、十年と積み重ねた経験は、目に見えないかたちで自分の中に残り、若い頃には持ち得なかった判断力や自信につながっていく。

「経験工学の世界なので、やはり積み重ねたものは残るんですよね。それが技術者としては嬉しいところでもあります」

 そして何より、自分たちが関わった建物が、実際に街の中に残っていくこと。その実感は、幼い頃に巣箱をつくったときの感覚とも、どこかでつながっているのかもしれません。

「最終的に建物ができあがって、あそこに自分が関わったものが残っているっていうのは、やはり大きいですよね」

 建物を見ると、その場面ごとの記憶がよみがえるといいます。苦労したこと、ぶつかったこと、やり切ったこと。その一つひとつが、ただの構造物ではなく、思い出の詰まった場所として立ち上がってくる。

「思い出がいっぱいあるんですよね。我々だけではなくて、作業員さんも“ここは自分が作ったんだ”って言うし、設計者もそうだし、みんながそう思える建物が一番いいんだと思います」

 大変だったけれど、確かに自分がつくったと言える建物を残していくこと。それが、岡田氏の考える現場の仕事の一番の魅力なのです。